戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
とはいえその女神国の女神兵も、実力は申し分ないものの、武勇を轟かせる事はこれまでなかった。

『女神国には戦女神と紅の旋風がついている』

最早その噂を知らぬ者は異国から来た者くらいしかいまい。

既に噂は尾びれ背びれがついて、当人たる私にとってはありがた迷惑な規模にまで発展している。

だから、私本人に会った者は皆驚くのだ。

「そのような小さな体なのに、剣の一振りで大地を割れるのか」などと。

仮にも年頃の娘をつかまえて、失礼な話である。

…ともかくそんな大袈裟な噂話も手伝って、この国はかれこれ一年、戦とは無縁の平穏な日々を送ってきた。

先日などは十万もの大軍がやって来たので侵略行為かと思いきや、隣国の同盟の話だった。

自分の国にこれだけの戦力があるのだ、と教えたかったらしい。

…女神国は、神がかった二人の騎士が守る難攻不落の国。

迂闊に攻め入れば、女神と魔風の手痛い洗礼を受ける。

誇張ではあるものの、国を守る者にとっては都合のいい噂だった。

この際偽りでもいいのである。

この国の民衆が笑顔で幸せに暮らせるのならば。

私とて好き好んで剣を取って戦場に立っていた訳ではない。

久方ぶりの王族としての日々は、それはそれで愉しき日々だった。

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