戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
公務を終え、私は王宮の廊下を歩いていた。

…先の戦で損傷した砦門の改築と同時に、王宮も大幅に造り直されていた。

小国は元々歴史の古い国だったので、老朽化も進んでいたのだ。

それが今では、倍以上の広さになってしまった。

磨き抜かれた大理石の壁に名の知れた画家の描いた風景画が飾られている。

調度品も、多少お転婆とも言える私が扱いに困るほどの上等なものばかり。

窓にも部屋にも壁にも天井にも、至る所に細やかな装飾が施されている。

ただ居住するには必要あるまい、と言いたくなるほどの手の入れようだ。

姫君…今は女神国の女王に祭り上げられてしまったが…の言葉とは思えませぬ、などと臣下の者には叱られてしまうのだが、どうもこのような豪奢な造りの王宮は落ち着かぬのだ。

まぁ同盟国や私を慕ってくれる者達の厚意で造り直された王宮だ。

文句は言うまい。

…そんな王宮をこっそりと出て、私は王宮敷地内の厩舎へと向かった。

「あ…乙女、また来たのですか?」

厩舎当番の若い騎士が、私の姿を見つけて言う。

…この国には、女王である私をその肩書きで呼ぶ者はいない。

名で呼ぶ者もいない。

小国の時から、そしてこれからもずっと。

私は『戦乙女』と呼ばれている。

呼ばれ始めた当初はこそばゆい気もしたものだが、今ではすっかり慣れてしまい、逆に女王陛下などと呼ばれる方がむず痒くなる。

「もう勘弁して下さいよ。この間も僕が武術指南殿に叱られたのですよ?『なぜ乙女に愛馬を預けてしまうのだ』とね」

本当に困っているのだ、とばかりに言う若き騎士。

「許せ、私も息抜きの時間が欲しいのだ」

私は騎士にウインクして、ドレスのまま愛馬の背中にまたがった。

めくれあがるドレスの裾。

若き騎士は思わず視線をそらしていた。




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