戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
夜の城下町を、一人歩く。

…私が夜歩きは控えるように厳命したせいで、街には人影はない。

静まり返った城下町はまるで廃墟のようであり、昼間の活気に満ちたあの街とはまるで別物だった。

聞こえるのは、冷たい風の音のみ。

時折風に揺れる木の葉のざわめきがそれに混じる。

…暗闇というものは、こうも人の不安を煽るものなのか。

幾度となく死の危険に晒され、幾度となく命懸けの戦いを繰り返してきた私でさえ、夜の闇に包まれると意味もなく恐怖心を掻き立てられた。

…この闇の中、もしかしたら私を狙っている刺客が潜んでいるのかもしれない。

その刺客は、もしかしたら人智を超えた存在なのかもしれない。

女神兵に抵抗すらさせずに、たやすく首を狩り落とすような…。

言い知れぬ不安に、思わず息を呑む。

…一際強い風が吹き、私の銀髪を乱した。

その風の強さに身がすくむ。

…そんな自分を滑稽に思った。

勇猛果敢、奇跡すら導く戦乙女が、普通の娘のように闇夜に脅えるとは。

まるでか弱い少女のようではないか。

「…しっかりしろ乙女。お前はヴァルキリーの化身ではないのか」

自分自身に暗示をかけるように呟く。

夜明けまではまだ時間がある。

今からこんな事で足を止める訳にはいかなかった。

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