戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~

何とか乙女は無事のようだ。

こんな事もあろうかと密かに尾行しておいたのは正解だった。

ついていくと言っても強情な乙女の事だ、認めぬだろうからな。

それにしても乙女に気づかれぬように尾行するのは骨が折れた。

…俺は地面に刺さった魔槍を引き抜き。

「さて」

屋根の上の刺客に目をやった。

「見ろ乙女。奴が魔槍の呪いの正体だ」

…風が雲を流し、赤い月が顔を覗かせる。

その月明かりに照らされ、屋根の上に身を潜ませていた刺客が姿を現した。

…その異形に、乙女が息を呑む。

全身に黒い包帯のような布を巻きつけた長身の男。

その右手には、糸状のものが月明かりを反射して輝いていた。

「それが女神兵の首をはねた得物か」

俺は呟いた。

…鋼線。

読んで字の如く鋼の糸。

刃のように研ぎ澄まされており、巻きつけたり縛り上げたりする事で敵を断ち切る。

どちらかと言えば暗殺などに使われる『暗器』に近い武器だ。

「成程。それで遠距離から女神兵の首を縛り、切断したという訳か」

乙女ほどの使い手ですら、風切り音を聞き取るのがやっとだ。

女神兵では気づく事もなくやられてしまった事だろう。

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