戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
身軽に屋根の上から男は飛び降りる。

「図に乗るなよ若造。ちと名が知れているからとて、俺に勝てるなどと思わぬ事だ」

鋼線を操りながら、男は言う。

「俺とて『漆黒』の名で通った黒の旅団の使い手だ。騎士道を振りかざす貴様らに、手段を選ばぬ我らは倒せぬよ」

そう言って。

「!」

漆黒と名乗るその男は、次々と鋼線を放ってきた。

…いざ敵に回してみると、この鋼線という奴は厄介だ。

鞭のような使い方なのだが、切れ味は剣と同等。

巻きつけ、強く引けば首をも断ち切る。

鞭のしなやかさと剣の切れ味を併せ持つ武器。

迂闊に受けに回る事もできなかった。

ひたすら回避に徹する。

鋼線が何度も俺の身をかすめた。

頬が、外套が、鋼線で斬られていく。

「…流石は紅の旋風とやら」

漆黒は俺を嘲笑った。

「逃げ足まで風の如しだな」

「貴様、言わせておけば!」

そばで見ていた乙女が腰の剣に手をかけるが。

「乙女」

俺は槍でそれを制した。

「黙って見ていろ」

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