戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
投げ放たれた槍は、まさしく矢の如く飛翔した。

狙うはただ一人、目前の黒き衣の男のみ。

その狙いは寸分の狂いもなく。

「ぐぁっ!!」

漆黒の左肩に突き刺さった!!

…傷口から大量の出血。

かなりの深手だ。

「チッ…心臓を狙ったつもりだったのだがな」

俺は舌打ちする。

「ぐ…ぐぅ…」

漆黒は悔しげに唸りながら、肩から槍を引き抜いた。

あの傷ではこれ以上の戦闘続行は不可能だろう。

「すぐに手当てをせねば左腕ごと使い物にならなくなるぞ?運良く生き延びたのだ。ここは退くがよかろう…もっとも、死にたいと言うのならば止めはせぬが」

言い放つ俺に。

「くそっ!」

呪詛のような罵倒を残し、漆黒は傷を庇いながら走り去っていった。

…あえて追いはしない。

手負いの獣ほど恐ろしいとの例えもある。

ここは退けられただけでも良しとするべきだろう。

…漆黒が投げ捨てた槍を拾い上げていると。

「紅」

背後に立っていた乙女は、笑みを浮かべていた。

「先程の投擲、わざと外したのだろう?奴を殺さぬ為に」

「……」

俺はフン、と鼻を鳴らした。

「買いかぶりだ。俺とて手元が狂う事はある」

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