戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
黒の旅団の兵は、振り向く事さえしない。

脇目もふらずに逃げの一手だった。

あちらから宣戦布告しておいて、一体どういう事だ?

臆病風に吹かれるにも程がある。

必死になって追う私と女神兵の軍。

「乙女!」

やっと追いついてきた紅が、私に向かって叫ぶ。

「熱くなるな!奴ら何か策を弄しているに違いない。一旦進軍を止めて様子を見るんだ」

「紅、貴方まで怖気づいたのか!?」

完全に頭に血が昇った私は、忠告してくれた紅に対しても暴言を吐く。

「どんなに策を弄しようと、たった百騎に何ができる!そのようなもの、一気に叩き潰してくれる!」

…そのまま黒の旅団を追い続けると、彼らは森へと逃げ込んでいった。

既に葉も枯れた、禿げ上がった木だけが連なる森。

そのような所に逃げ込んだところで、逃がすものか…!!

当然私は兵を率いて、森へと突入していった。

…森の中は、夜という事もあり更に暗い。

視界は極端に悪く、本来ならば馬を駆るには危険な場所だった。

だが敵を逃がしたくない一心で、私は全速力で馬を走らせる。

と、その時。

「うぁぁ!?」

後続の兵の声。

思わず馬を止めて振り向く。

…そこには、落馬して地面に叩きつけられた兵の姿があった。

最初は姿勢を崩して落馬でもしたのかと思っていた。

しかし。

「うおっ!」

「うわあっ!」

私の見ている目の前で、兵達は次々と落馬していった。

まるで見えない何かに引っ張られるように。

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