戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
紅
女神軍の撤退した森の中は、本来の静寂に包まれる。
…既に冬の到来を待つばかりとなった森の中に動物の姿はなく、食糧となるものもない。
生命の死に絶えた、死の森。
その中に存在する気配は、いまだ闇の中に潜む黒の旅団の兵士達。
取り残された俺。
そして。
「この時を待っていたぞ」
俺の目の前に立つ漆黒だった。
「貴様とこうして一対一になる時を狙っていた。俺に傷を負わせた貴様は、この手で葬ってやらねば気が済まない」
執念深さを感じさせる台詞を吐きながら、漆黒が右手の鋼線を弄んだ。
「…昨日の今日だ、肩の傷は癒えてなかろう」
俺の言葉に。
「ああ」
漆黒はギリ、と歯軋りした。
「貴様を早く殺せと、この傷が疼くのだ。貴様を地獄に送らぬ限り、俺の傷の疼きはおさまらぬ」
…どうやらこの戦いは避けられないようだ。
「……」
俺は溜息を一つついた後。
「ランスロット」
ある人物の名を口にした。
その名を聞いた漆黒の動きが止まる。
「確か五年ほど前だったか…そういう名の鞭の名手がいた。女性と見紛うほどの優男で、鞭を操らせたら右に出るものはいないほどの使い手だったらしいが…」
俺は視線を漆黒に向ける。
「お前の鋼線の扱いは、噂に聞くそのランスロットの鞭捌きに実によく似ているのだが…心当たりはあるか?」
…既に冬の到来を待つばかりとなった森の中に動物の姿はなく、食糧となるものもない。
生命の死に絶えた、死の森。
その中に存在する気配は、いまだ闇の中に潜む黒の旅団の兵士達。
取り残された俺。
そして。
「この時を待っていたぞ」
俺の目の前に立つ漆黒だった。
「貴様とこうして一対一になる時を狙っていた。俺に傷を負わせた貴様は、この手で葬ってやらねば気が済まない」
執念深さを感じさせる台詞を吐きながら、漆黒が右手の鋼線を弄んだ。
「…昨日の今日だ、肩の傷は癒えてなかろう」
俺の言葉に。
「ああ」
漆黒はギリ、と歯軋りした。
「貴様を早く殺せと、この傷が疼くのだ。貴様を地獄に送らぬ限り、俺の傷の疼きはおさまらぬ」
…どうやらこの戦いは避けられないようだ。
「……」
俺は溜息を一つついた後。
「ランスロット」
ある人物の名を口にした。
その名を聞いた漆黒の動きが止まる。
「確か五年ほど前だったか…そういう名の鞭の名手がいた。女性と見紛うほどの優男で、鞭を操らせたら右に出るものはいないほどの使い手だったらしいが…」
俺は視線を漆黒に向ける。
「お前の鋼線の扱いは、噂に聞くそのランスロットの鞭捌きに実によく似ているのだが…心当たりはあるか?」