戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~
樹上の漆黒は、腰に帯びていた短剣を抜く。

「動くなよ、紅。迂闊に動けば鋼線で斬り刻まれるぞ」

「…成程、それで動けない俺に短剣を投げつけ、とどめを刺す訳か」

さして動揺も見せず、俺は呟く。

「冷静でいられるのも今のうちだ」

勝ち誇ったように笑う漆黒。

そんな彼に対し。

「…貴様を見ていると、かつての俺を思い出す」

俺は静かに目を閉じた。

…自由騎士時代、俺も漆黒と全く同じ考え方だった。

誇りも矜持も捨て、勝つ事だけにこだわった。

勝利さえ得られれば戦術などどうでもよかったし、自分さえ生き残れれば仲間などどうでもよかった。

漆黒が卑怯な手を使ってまで勝ちをつかみたがるのもわかる。

俺が奴と同じ人生を辿っていたら、同様に歪んだ物の考え方をしていた事だろう。

だが。

「残念だったな、漆黒」

俺は言う。

「お前も乙女に出会っていれば…勝利ではなく、勝ち方にこだわる事もできただろうに」

それは心からの言葉。

他意のない言葉だった。

が、漆黒はそうは受け取らなかったようだ。

「紅、貴様…それは俺に対する憐れみかぁっ!!見下しおってぇっ!!」

己を下に見られたと感じた漆黒は、鋼線に囲まれて身動きの取れない俺に短剣を投擲する!!

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