戦乙女と紅~呪われの魔槍の章~

武術指南役など、柄ではないと思った。

そもそも俺の剣術も槍術も、戦場で培ってきた我流の技だ。

俺自身基礎以外は誰かに教わって身につけた訳ではないし、誰かに教え広める為に編み出した技術でもない。

そう言って断ろうとすると、彼女はこう返した。

「貴方が教えるのは技ではない。戦場で貴方が得てきた生きる為の不屈の精神なのだ」

兵が逆境や過酷な環境下で、少しでも諦めないでいられるように。

生き延びて、もう一度大切な人々の下に笑顔で帰れるように。

その為の心構えを、皆に伝えてやって欲しいと。

…乙女の熱意にほだされて、俺はその役職を引き受けた。

そして乙女の考えは正しかったと、程なくして理解できた。

実は技術など、些末な事なのだ。

いや、些末というのは語弊があるが。

剣術の腕など、どこの国の兵士も大差はない。

それらを補っているのは、国や君主に対する忠誠心、死をも恐れぬ誇りや矜持。

それらに裏付けされて、強国の兵というものは類稀な強さを発揮する。

命を引き換えにしてでも国を勝利に導く、という強さ。

だが、その強さは乙女の求める所ではない。

命を捨てての強さなど、乙女は絶対に認めない。

だから彼女が俺に対して指示したのは、『生きる事に執着する強さ』だった。

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、ではなく、身を惜しんでこそ浮かぶ瀬もあれ。

生きようとする意志こそが、何よりも強い。

女神国の女神兵の強さは、命を守る強さなのだ。

俺は乙女のその考え方に感服し、尊敬の念さえ覚えていた。

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