ときどき
足立くんは、私が帰りを急がないと分かると、せっかく会ったのだから水を一箱余分に買いたいので家までついてきてくれないかと言った。
文脈がおかしい。
せっかく会ったのだから駄弁りませんか、とかなら分かるけど。
この男、人をこき使う気満々である。

「私はいつから便利屋になったのかな、足立くん」
「お一人様一箱限りで水が安くなっているときに現れるのは、便利というほかないだろ」
「そんな無駄な重労働をして、私はなにかいいことあるの?」
「・・・多分家まで来ればなんとかなる」

明らかに横暴な要求に、私は反発してしかるべきだったかもしれない。
でも、なんかしょうがなくない?
気になるじゃん、足立くんの家。
それに、あまり無理な要求でもないしな。
と、私は考えて、いかにもしょうがなさそうな顔をして承諾した。

足立くんの家までは徒歩5分の距離だったが、2リットルのペットボトル6本入りの箱を抱えて歩くのはけっこうしんどかった。
一応、男である足立くんは私の学生鞄を引き受けてくれたが、試験明けの鞄の重さなどたかが知れているので、あまり肉体的負担は軽くならなかった。
でも、持ってもらうというだけで精神的にはけっこう得した感じ。
いや、得してるわけない。ちゃんと考えろ、自分。
それにしても、足立くんは案外筋力はついているタイプなのだろうか。学生鞄を肩にかけ、均等な重さに分けたレジ袋を両腕にかけ、なおかつ水の箱を抱えているわけだが、涼しい顔をしている。

「家ってもうすぐ?」
「ああ、あそこ」

足立くんが無造作に顎で示した先を見ると、一般的なサイズよりきもち大きい二階建ての一軒家があった。あまり新しい家ではないようだが、外側を見るに清潔に保たれているようだ。
家の前まで来ると、足立くんは箱を一度置いて、ジーンズのポケットから家の鍵を取り出した。
一度ひねれば、解錠の音が響く。
ドアを開けた先に、その音を聞きつけてやってきた者がいた。
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