ときどき
試しに渡部さんとの付き合いを尋ねてみると、謙也くんはひとりべらべらと語りはじめた。
昔はもっと明るかったがなんだか全然謙虚じゃなくて偉そうだったとか。
でも友達はいなかったからずっと足立くんと一緒で、家にもよく入り浸っていたようだ。
小学校中学年になったあたりからなんだか暗い感じになって、ガリ勉になっていったので将来を危ぶんでいたらしい。

にわかには信じられない情報を聞きながら、私、なんとなく分かってきた。
なんか、渡部さんの事けなし気味に言ってるけどテンション高すぎ。すごい饒舌。
この弟、渡部さんの事好きなんだ。
いるよね、兄とか姉とかの友達好きになるひと。私一人っ子だけど。

「へえ、じゃあ渡部さん、高校入ってから大分変わったんだ」
「え?」
「だって渡部さん超人気だもん。早速彼氏できたし」
「ーーーーーおい実里そんなこと言ってなかったじゃん!」

謙也くんは私のことばに真っ青になり、足立くんに飛びかかった。
非常に良い反応だ。

「なに謙也、真に受けてるのよ。冗談に決まってるじゃん。ね、弓弦くん」

絵美ちゃんが真顔で言ってのけ、私は正直びびった。
びびったが肯定する。
とたん、「嘘つきはどろぼうのはじまり」と謙也くんはめちゃくちゃ懐かしいことわざを叫んで、どこかへ行ってしまった。変な子だ。

「そろそろ夕食の準備するから。好己、浅野を駅まで送ってやって」

足立くんはおもむろにエプロンをかけると、台所へ向かいながら実兄にそう命じた。
なんて弟。でも、一応私の帰りは案じているのか。

「おい、そこは自分でいけよ」
「夕食遅くなるだろ。好己、料理できないくせに」
「ちょっとぐらい遅くなってもいいから。行け行け」

好己さんは、足立くんの首根っこをつかんで引っ張った。
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