ときどき
「・・・・って言われても・・・なんかひどいよね!足立くん、複雑な人間関係の渦に飲まれていないからそんなこと言えるんだよ!」

私は、逆ギレまがいの感情を佐伯くんにぶつけていた。
足立くんの怒濤の罵倒事件から一日。本気で軽蔑されたのか、話しかけてもらえなくなった。
その様子にめざとく気づいた佐伯くんに事情を聞かれたので、話しているとなんだか気持ちが乗ってきて気がつけば大声になっていた。
多分足立くんに聞こえてるけど、聞いてればいい。

「まあねー、女子ってそのあたり陰湿だよねー。足立の知らない世界だよねー」
「処世術なんですけど!誰も好きでやってないですけど!ほんっと分かってない!」
「足立ってその辺割りと自由に生きてるもんねー」

例によって佐伯くんの同情は心を癒してくれる。
やっぱりまともに付き合いのある人間って少なからず分かってくれる。
でも、やっぱりふと渡部さんが視界に入ると落ち着かなくなる。
休み時間も数学のノートを開いて何か予習をしている彼女が、悪口を言われるような子じゃないというのは、分かりきったことだ。
罪悪感で胸がはちきれそう。
私、自分の考えに賛成してもらってるだけでいいのかな。
だって、第三者目線から見て、どう見ても正しいのって足立くんだし。
それも、分かりきったことだ。

「で、結局どうするの浅野さん」
「どうするって・・・どうしよう」
「ここで今後の浅野さんの身の振り方が決まるよね。いやー、重大」
「軽く言わないでよー、重く言われても困るけど」
「二者択一だよ、浅野さん。俺も正直あの二人の子は軽薄で馬鹿すぎると思うし、足立が認めることはないと思う」

佐伯くんの言う通りである。
多分、私はどちらかとの縁を切らなくてはいけないのだろう。
縁を切る。
そのことが、ひどく恐ろしい。

「夏休みまでもつれ込むのはあれだし、明日の終業式までにはなんとかした方がいいんじゃないかな」
「・・・・うん、そうだね」
「難しいけどさ、きっぱり決めちゃおうよ。ちょっとぐらい嫌なことあっても休み挟んだらどうにかなるって」
「うーん・・・」
「まあ、だいたい分かってると思うけどさ、一応俺の意見を言っておくよ」

佐伯くんは、にっこりとこちらに笑みを向けた。

「俺は、足立や渡部さんと話してるときの浅野さんの方が好き。楽しそうだし」

うん、こっちの方が楽しい。
それも、分かりきったことだ。
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