ときどき
祭に行くとなれば、日時も場所も自ずと決定する。
学校からほどない距離に、そこそこ規模の大きい神社がある。八月中旬にそこで夏祭りが開催されるというので、私たちはそこに行くことに決めた。
それで、足立家に来た主な目的は達成されたので、私は満を持して宿題を取り出した。

「じゃあ、渡部さん教えてー」
「はい、えっと、数学ですか?」
「浅野、お前まだ終わってなかったのかよ」
「俺もまだだよー。もう、二人とも早すぎねー」

佐伯くんは暢気に笑うと、好己さんと足立くんを誘ってテレビゲームに興じはじめた。
謙也くんは実力差のせいか、その輪に加わらず自分の勉強を続ける様子だ。
和室は瞬く間にゲームの喧噪に飲まれた。私は、勉強をする際にBGMを使用して士気を上げる質なのでゲームの音は気にならなかったが、渡部さんはちらちらと煩わしそうにテレビを見ている。多分、佐伯くんがいなかったら「うるさいんですけど」と言ってやりたいのだろう。

「渡部さん、ここがちょっとよく分からない」
「えっと、ここはちゃんと教科書に載ってますよ。あ、教科書は無いですか?ここ書きますね。この手順を覚えてください」
「えっとー・・・」
「見ながらでいいと思います。とにかく類題を繰り返し解いてみてください。覚えられますから」

私が解き方と問題を見比べて唸りながらシャープペンシルを走らせている間、渡部さんは無言で見守っている。ちょっと怖かったがしばらくすると慣れてきた。
私たちがだんだん集中して静かになっていく中、ゲームの方はますます盛り上がりを見せていた。

「いけーっ!」
「好己、そこ邪魔どけって」
「あー!また俺死んだ!」
「いや、ごめんねー」
「好己さんさっきからずるくない?次ハンデつけてよ!」
「好己、次ダメージ受けた状態からな」
「がっつくなよ若輩共。五年間なんて五分で取り返してやれ」
「ゲーム如きで偉そうにしてんじゃねえよ」
「あっ、なに勝手に次始めてんの好己さん!」
「いや、ごめんねー」

好己さんが口癖らしきものを煽り文句のように使用しているのを聞き流しているうちに、分からなかったところはだいたい埋められてきた。
謙也くんが暇そうにしているし、付き合ってあげてもいいかもしれないなと思った。

「謙也くん、私これ終わったらゲーム付きあおっか?」
「いや、いいわ。今年の夏は向いてない娯楽に時間かけてる場合じゃないし」
「あら、偉いですね謙也くん」

ちっ、渡部さんがいるからって真面目ぶりやがってこの弟。

その時、ふと玄関の鍵が開く音がした。
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