狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
琴葉は黒兎への文を懐にしまい、早足に立ち去った。
琴葉の立ち去った部屋の中ではーーー
「ねぇねぇ、上手く騙されたみたいだよぉ〜」
この前のフードを被った小柄な少女が、部屋の扉を開けて琴葉の後ろ姿をニヤリと笑って見ていた。
黒兎はふぅと一息ついて、椅子の背もたれに背中を預けた。
そして下に片膝をついて頭を下げる冷樹を見る。
「手伝わせてすまない、冷樹。
でもおかげで裏切り者を始末出来そうだ」
黒兎は肘掛けに頬杖をつき、冷樹に微笑む。
冷樹は頭を上げず床を見つめたまま。
「…いえ、黒兎様のためであればこれくらい造作もありません。
混妖の王と共に穢れ物も消せれば一石二鳥ですので」
冷樹の言葉に黒兎は「それもそうだね」と言って笑った。
フードを被った少女は階段を駆け上がり、頬杖をつく黒兎のもう片方の肘掛けに座った。
「ね、黒兄様!これで裏切り者が確定して、殺し合いが出来るのぉ〜?
私、早く殺したいんだけどぉ」
少女は何かを欲しがる子供のように人差し指を下唇にあてた。
そんな少女に黒兎は苦笑いして、少女の頭を撫でた。
「…もう少しで殺し合いを始めるよ。
君の出番だね」
黒兎が言うと、少女は「やったぁー!」と語尾に音符がつきそうな明るい声音になった。
もし琴葉が最後まで話を聞いていたのなら………
この先に起こる惨劇は、怒らなかったのかもしれない。
「…さ、裏切り者をさっさと処分してしまおう」
黒兎が指を鳴らしたことで、惨劇の始まりの合図となったーーーーー