狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
鏡の中は不安定だけど一本の道が出来ている。
三篠と一度人間界に戻る時に通ったことがあった。
その時は三篠が「この道から落ちると永遠にこの狭間をさまようことになる」とか脅してきたから怖かったけど、今はそれほど怖くない。
この道は力が強い人が通るほど、道が安定するらしい。
私は鵺姫としてまだ未熟だから道は不安定。
いつか綺麗で真っ直ぐな道になればいいな。
私はそう思いながら、先にある出口に向かって歩いた。
光を放つ出口を通ると、そこは三篠達のいる屋敷の風景だった。
なんとか無事に着いたことに安心して、ホッと息を吐く。
「…あら、小雛様。お帰りなさい」
一息ついていると、部屋の出入口からヒョコッと深寿さんが現れた。
深寿さんは微笑みながら、こっちにやって来た。
「深寿さん、どうしてここに?」
「小雛様がこちらに来る気配を感じましたので、お出迎えに来ちゃいましたわ」
あどけない深寿さんの笑顔に、私も釣られて笑ってしまう。
お出迎えありがとうございます、と深寿さんに軽くお辞儀をすると深寿さんはまた何かの気配を感じたのか眉をひそめた。
もしかして誰かが人間界からやってくるの……?
私は背後にある大きな鏡を見つめたが、鏡は不安そうな表情を浮かべる私と深寿さんしか映っていない。
クスッ
鏡に映る深寿さんが咳払いをするような手つきで手を口にあて、笑った。
私はまた深寿さんの方を向いた。
「…どうやらお出迎えしてくれるのは、わたくし一人ではないようです」
「……え?」
深寿さんの言ってることが分からず、私は首を傾げた。
首を傾げて深寿さんを見ても、深寿さんはクスクスと笑うだけ。
「……小雛!」
廊下から私を呼ぶ大声が聞こえた。
その声は遠くから聞こえるのに、近くにいるかと思ってしまうほど大きかった。
私は体をビクッと揺らし、恐る恐る部屋の出入口から顔を出す。
数メートル先から歩いてくる愛おしい人物に、思わず目を細める。
そして気付けば私もその人物に向かって歩いていた。