狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
「…三篠……!」
歩く途中でパンパンに膨れたボストンバッグを落とし、私は愛おしい人物・三篠に近付いた。
三篠との距離がゼロになると、三篠は優しく私を抱き締めてくれた。
「…小雛、待っていたぞ。
よく一人で来れたな」
「…子供扱いしないでよね。
これくらい、なんてことないんだから」
三篠の温もりが感じ、私も三篠の背中に腕を回す。
三篠と離れていたのはほんの数時間だけだったけど、それすら寂しく感じてしまった私はきっと重症だと思う。
三篠は私の腰に腕を回したまま少し離れ、私の顔を覗き込んだ。
「…髪型を変えたのか?」
三篠は片手で私の髪を梳いた。
こっちに来る前にお母さんに髪を切ってもらった。
いつもは腰近くまである黒髪をポニーテールにしていたけど、その髪を肩甲骨あたりまで切って下ろしている。
けじめというか切り替えというかそんな思いを込めて、髪を切った。
「…へ、変かな……?」
三篠が触った髪を自分も触り、見つめる。
結構短くなったけど、もしかして似合ってないかな。
そんな不安な思いは三篠が消し去ってくれた。
「いや、よく似合ってる」
いつにも増して艶やかな微笑みに、顔が熱くなる。
三篠を見ていられなくて目線を逸らすと、三篠に顎を持たれた。
三篠は微笑んだまま、私に顔を近付けてくる。
三篠が何をしようとしているのか簡単に予想出来た。
私の唇にあと何ミリで三篠の唇が触れそう。
私の目は自然と閉じ始めた。