狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
「…なるほど。あなたが仕事部屋に遠回りして行こうと言った意味が、ようやく分かりましたよ」
私達の甘い時間は、桔梗さんの声で終わりを告げる。
三篠から少し離れて三篠の背後を見ると、プルプルと体を震わせ怒りを露わにしている桔梗さんがいた。
三篠に抱き締められてキスをしようとしていたところを見られた恥ずかしさに、慌てて三篠から離れようとする。
でも三篠は舌打ちをして、更に私を引き寄せた。
「…せっかくの再会を邪魔するな」
「いいえ、仕事に支障の出ることなら遠慮なく邪魔させていただきます」
さ、行きますよ。
桔梗さんはそう言って私から離れようとしない三篠の襟を掴み、三篠を引きずるようにして連れて行った。
「…お、おい!離せ!小雛!こひなぁー!」
三篠は私に手を伸ばすけど、どんどん離れていく三篠の手を掴むことは出来なかった。
ごめんね、三篠。
桔梗さんに逆らうと怖そうだから。
心の中で三篠に謝り、両手を合わせる。
「…全く、民の揉め事も自分で片付けるから忙しくなるのだとあれほど言ってるのに。
民の揉め事くらい六臣に任せておけば良いものを」
「…深寿さん」
いつの間にか横に来ていた深寿さんが、床に落としたままだったボストンバッグを拾ってくれた。
確かに三篠はいつも忙しそうにしているけど、態々自分で解決させようとしてるのは…
「…それだけ民のみんなを大切にしている証拠だと思います。
三篠は仕事をよくサボるけど、やる時は人に頼らないでまず自分で行動すると思うから」
三篠はきっと最初から人を頼らないと思う。
まずは自分で解決しようと行動して、一人じゃ無理なら誰かを頼る。
全てを部下に任せるような人じゃない。
だから三篠に付いてくる人がこんなにたくさんいるんだ。
私もこんな三篠だから、一緒にいたいと思うんだ。
三篠がいなくなった廊下をジッと見つめていると、横にいた深寿さんがクスクスと笑った。
も、もしかして私変なこと言った!?
「…す、すみません。
変なこと言いましたよね……!?」
モゴモゴと慌てていると、深寿さんは笑ったまま首を横に振った。
「いえ、全然変でないですよ。
むしろよくそこまで三篠のことを分かってらっしゃるのだと関心していたら、つい笑ってしまって」
なんで三篠のことをよく分かってるのに、笑われたんだろう…?
そう思ったけど、深寿さんだからいっかとすぐに開き直る。