狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
桔梗さんの部屋を出て、自分の部屋に向かう道のり。
その間ずっと考えていたのは、桔梗さんが言った言葉。
『…あなたが何故人間として生きる道ではなく、人間を捨て鵺姫として生きる道を選んだのか、そのお考えを常に頭の隅に置いて忘れないでください』
私が人間を捨て鵺姫として生きることを決めたのは、三篠のため。
三篠の隣にいたくて、三篠の大切なものを守りたくてこの道を選んだ。
だから私は三篠といるために、黒兎を倒さなくてはならない。
桔梗さんはそう言いたかったんだと思う。
でも、それでも………
「…兄弟で殺し合うなんて………」
ずっと考えているたから、いつの間にか自分の部屋の前にいた。
どこを歩いてきたのかなんて思い出せないくらいに考え込んでいた。
いくら考えたって、私のすることは一つしかないんだ。
そう思って自分の部屋の襖を開ける。
するとベランダの柵に背中を預け、書物を読んでいる三篠がいた。
三篠は襖の開く音に気付き、書物を閉じて私の方を向いた。
「…小雛。随分と長風呂だったな」
妖艶に微笑む三篠。
月に照らされる三篠の金色の髪は風に靡いている。
「…おいで、小雛」
三篠はその場に立ち尽くす私に手招きをする。
私はただ促されるがままに三篠に近付いた。
三篠との距離が近くなると手首を掴まれ、私は三篠の腕の中に収まった。
すぅ
三篠は私の髪に顔を埋め、匂いを嗅いでいる。
でもすぐに両肩を掴まれて、引き離された。
三篠の表情は目が見開き、驚いているようだった。
「…おい、お前から桔梗のにおいがするぞ!
もしや桔梗の部屋に行ってたのか!?」
言わないでおこうと思ったのに、アッサリとバレた。
というか桔梗さんの匂いなんてよく分かったね、三篠…
心の中で冷静にツッコむ私とは反対に、三篠は怒っている。
「なんであいつの部屋に行ったんだ!?
桔梗(あれ)は狼なんだぞ!?部屋に一人で行ったら夜這いだと思われて、襲われるぞ!
なにもされなかったか!?」
両肩を掴まれて、前後に揺すられる。
首が座ってない赤ちゃんみたいに、頭がグラグラする。
ていうか夜這いって…
桔梗さんと同じこと言ってるよ。
私は頭がおかしくなる前に、慌てて訂正する。
「き、桔梗さんに何もされてないよ!
私はただ三篠と黒兎のことを聞きに行っただ……けで……」