狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
言ってから気付いても、もう遅かった。
三篠は手の動きを止めて、目を見開き私を見ている。
三篠の灰色の瞳には私だけが映ってる。
「…聞いた、のか?俺と黒兎のことを……」
言ってしまったら嘘はつけない。
私は正直にコクリと頷いた。
三篠はふっと笑って私から手を離した。
その表情はすごく悲しそうだった。
「…そんなこと、俺に直接聞けばいいものを。
聞きにくいと思って桔梗に聞いたんだろ?」
三篠には何でもお見通しらしい。
私が桔梗さんに聞いた理由をいとも簡単に当ててしまった。
「…勝手に聞いてごめん。
でもどうしても気になって…えっと…最初は三篠に直接聞こうと思ったんだけど……」
ダメだ。
何を言っても言い訳にしか聞こえない。
なんで桔梗さんに聞いたのか理由を言おうとしても、三篠が何を思ってるのかが分からなくて、それが怖くてなかなか言い出せない。
表情は笑っているけど、もしかしたら勝手に聞いたことを怒ってるのかもしれない。
ヒトの過去を勝手に詮索して、嫌な女だと思われたかもしれない。
それとも……それとも……
ポン
下を向いて色々考えていると、三篠の大きな手が私の頭に置かれた。
私はバッと勢いよく顔を上げる。
三篠は相変わらず微笑んでいたけど、発せられた言葉は優しいものだった。
「そんなに怖がるな。
俺は別に勝手に聞きに行ったことを怒ってなどいない。
いつかは話そうと思っていたことだし、俺のことなど聞いてくれればいくらでも話す
……まぁ、勝手に一人でこの時間に桔梗のところに行ったことには怒ったがな」
一言多い気がするけど、三篠の優しさに改めて惹かれてしまった。
……優しすぎるよ、三篠。
いつの間にか強張っていた体も緩み、三篠の温もりに安心してきた。
私の体の強張りが取れたのに気付いた三篠は、手を動かして私の頭を優しく撫でた。
それから頭の上にあった三篠の手は私の手に重なり、三篠は夜空に輝く月を見上げた。