狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~




『…お前が、…お前が半妖じゃなければ…母様は死ぬことはなかった…』


『……く、黒兎…?』


『お前のせいだ…お前のせいで母様は死んだんだ……!』




……ここだったんだ。




三篠と黒兎の意見が食い違った瞬間、そして戦う運命の始まりはこの時だったんだ。




この出来事から、三篠は戦いたくない人と戦わなくてはいけない運命を背負った。




「…ここから黒兎は変わった。
純妖と混妖が笑って暮らせる世界から、黒兎はお袋と彼女を殺した憎き混妖をこの世界から消し、純妖だけの世界を作ることを望んだんだ」




三篠が黒兎の母親を殺したわけじゃない。
でも黒兎にはそう考えられてしまったんだ。




黒兎にとって何より憎いのは母親と彼女を殺した人物じゃない、混妖なのだから。
だから混妖をこの世界から消すという結論に至った。




もし黒兎の母親が殺されなかったら?
三篠が混妖じゃなかったら?
二人は一緒にこの世界を平和なものに変えようとしたのかな。




「……大切な人を失って、今度は俺自らが大切な人を殺そうとしている。
運命は残酷だよな。


まぁ俺も、あいつの大切な人を奪ったんだ。自業自得か」




三篠は今にも泣きそうな顔で月を見上げた。




黒兎の大切な人…それは自分を助けるために命を犠牲にした、黒兎の母親。
そしてその母親の側近であった、黒兎の恋人。




それによって優しかった兄の黒兎は、残酷な人になってしまった。
その黒兎を、三篠は倒そうとしている。




三篠は自分のせいで大切な人を失い、そして次は自分の手で大切な人を失おうとしている。




運命はこれ以上三篠から大切な人を奪って、何がしたいの…?
目に見えないけれど、運命というものを憎く思ってしまう。




どうして三篠ばかりが、大切なものを失わなければならないの?




……三篠にはもう、大切なものはなくなってしまった?



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