狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
……ううん、ちゃんとある。
「……こ、ひな…?」
私は立ち膝になって三篠を優しく抱き締めた。
私の胸の中で、三篠は驚いた声を出した。
大丈夫だよ、三篠。
「…私がいる。
私がずっと隣にいて三篠の大切な人になる。
だから自分の運命を憎まないで」
こんな残酷な運命、憎く思うかもしれない。
でも一つでも一人でも多く大切なものがあれば、こんな運命だってきっと乗り越えられる。
三篠の隣には私がいる。
そして三篠と私の周りには、深寿さんや六臣のみんながいる。
さらにその周りには三篠のことを頼りにしている、混妖のみんながいる。
目を凝らしてよく見れば、あなたの周りにはこんなにも大切なものがあるんだよ?
だから、悲しい顔をしないで。
ギュッと三篠を抱き締める腕に、力を込める。
すると三篠の腕がゆっくりと背中に回ってきて、私の服を掴んだ。
「……悪い…少しだけ……こうさせてくれ……」
掠れている三篠の声は、涙声だった。
三篠の顔は私の胸につけられているから、三篠が泣いてるのかなんて分からない。
だから私はただ優しく三篠の頭を撫でた。
『三篠様は昔は黒兎と戦うつもりはなかった。でも今は本気で戦い、この世界を変えようとしている。
ですから敵を助けるという考えなど、お捨てください』
桔梗さんはこう言っていた。
でも私は桔梗さんの忠告は聞けない。
三篠が純妖と混妖が笑い合って暮らせる世界を望むなら、私は三篠が笑って暮らせる世界を望む。
そのためだったら、例え敵であろうと黒兎を助けたい。
ううん、助けてみせる。
せっかく忠告してくれたのにごめんなさい、桔梗さん。
でももう決めたことだから。
私は三篠をしっかりと抱き締めながら、自分が望む世界を胸の奥底に秘めた。