狂愛ノ書~紅き鬼と巫女の姫~
第六ノ書
【side 瑠璃葉】
カコン
柄杓が地面に落ちる音が、頭にやけに響いた。
今、紅葉はなんて言ったんだい?
胡蝶ノ国が黒兎側の妖達に襲われてる?
母様や菊葉と蜜葉が戦ってる?
しかも劣勢?
ついにこの時が来てしまったのだと思った。
手から落ちた柄杓から水が零れている。
「瑠璃葉母様……」
「…瑠璃葉」
紅葉が眉をハの字にしてアタシを見つめている。
隣にいた海似に手を握られた。
そんな二人にアタシは笑顔を向けて、落ち着くことなんて出来やしなかった。
紅葉は胡蝶ノ国が襲われている理由は分からないと言っていた。
でもアタシにはすぐに分かった。
胡蝶ノ国が襲われているのは、アタシのせいなんだ。
アタシが混妖として生まれ、三篠様の下についたから家族の住むあの国が襲われた。
姫様が来た時から、ずっと考えていたじゃないか。
黒兎が動き出すとしたら、混妖であるアタシがいる胡蝶ノ国が狙われやすいってことを。
それが今来ただけじゃないか。
それなのに、自分を責めずにはいられないんだよ……!
アタシがいなければ母様も菊葉も蜜葉も戦わずに済んだ。
アタシが混妖じゃなく純妖だったら、誰も傷つかずに済んだ。
持っていたバケツも手から落とし、水を零す。