君の名を呼ぶ度に。
あたしのそんな答えを聞くと、お母さんは安心したようにリビングへ降りていった。

部屋の中が静まりかえる。

そして、あたしの決心を待っていたように、携帯が鳴った。

「……」
『……昂?』

「ああ」
『あのね』

「ん?」
『あたしたち付き合っちゃおうか』

こう言ったあたしの頭の中には、


そうしてほしい、と
やっぱり駄目だよ

という言葉が渦巻いていて。

でも結局、あたしはズルくて。

汚くて。
どうしようもない人間なんだ……

「うん、そうしようか」

そんな悲しそうな声で話さないで?

あたし、知ってるよ?

昂には好きな子がいるって。


でも、放って置けなかったんだよね?

あたしを。

翔が記憶を失ったように
あたしは翔を失ってしまったから。

翔の心の中であたしが死んじゃったのをみていられないから。


『大好きだよ、昂』




大好きだよ、"翔"
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