空の窓から
ガラガラガラ…

「いやー、今日も暑いなぁー。」

大きな体に大きな声、それでいて人懐こいようにも見える笑顔。

普段は騒がしい生徒も、この授業では静かな理由の一つだ。

授業中の態度には厳しいが、それでいて、細かな気配りや優しさを併せ持つ先生。

口に出しては言わないが、この先生ならしょうがない、真面目に受けよう…と思っている生徒が恐らくは大半。


この日も、先生が教室に入ってくるなり、ガヤガヤしていた教室が一気に静まり返った。


そんな教室の雰囲気を横目に、窓香は口の中に残っている飴玉をころころと転がしていた。

視線は黒板の方に向けているが、特にどこかを注視しているわけでもなく、ただぼんやりと、前を向いているだけ、という感じ。

窓香にとっては、チャイムが鳴ってから授業が始まるまでの時間は、体育でいうところの準備体操の時間になっている。

要するに頭の切り替えが遅いだけなのだが、本人は急ぐつもりが全く無い。

日常の事柄、全般に対してそうなので、周りに急かされたり、あるいは手を加えられたりすることも間々ある。

もっとも、窓香は他人が好意をもって接してくれる分に関しては、基本的に何をされても気にする素振りを見せないので、周りも段々と無遠慮になってくる。

窓香は、そういう気さくな付き合いを好むが、その反面、踏み込んで欲しくない領域も多く抱えていたりする。

この辺りの要素が窓香の対人関係を難しくさせているのだが、窓香は「それでもいいかな」と思っている。


ぼんやりと眺めている間に、自分の名前が呼ばれ、「ハイ」とだけ返事をする。

自分の後には数人しか残っておらず、程なくして授業が始められた。


そんな火曜日の昼下がり、廊下側の席から、廊下の向こうの外を見やる。

空の雲は少し流れ、空は明るい陽射しに包まれていた。
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