notebook 1
目を合わせて
「目を合わせて」






どうやら風邪をひいてしまったようだ。
困った、これじゃ下手に外出できない。
三年前に一人暮らしを始めてからというもの、風邪なんてひいたことなかったのに……。
悔しさのあまり私はまくらに顔をうずめた。
ただ風をひくだけなら良い。全然OK、どんとこいだ。
けれど私には

「風邪をひいた時に目があった人と恋に落ちる」

という謎の特性がある。現代の科学じゃ証明できない。
おちおち外にも出られない、風邪をひいたとき限定で。

昔風邪をひいたとき、女友達と目が合ってしまったことがある。
あれは本当にやばかった。何がやばかったって、危ない一線を越えるところだった。
それは今となっては笑い話だが、笑い話では済まない事例だっていくつかあるのだ。
例えば、親と目が合ってしまった五年前のあの日。
今でも思い出しただけで脂汗が止まらなくなる。
あれは数少ない「本気で笑えない話」の中で最も笑えない。郡を抜いて笑えない。
犯罪スレスレだし、気持ちが悪いしで最悪の中の最悪の話だ。
極めつけ、あの頃の私は反抗期ときたもんだ。後々恋が覚めて本気で死のうと考えた。
もちろん死ななかったけど。

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