きっともう大丈夫

それぞれの思い

「お久しぶりです」
明良が深々と頭を下げた。
数年ぶりにあった明良は少し髪の毛が短くなったくらいで
あまり変った様には見えなかった。
でもなぜ彼が詩織の店を知っていたのか・・・
詩織も一海も明良とは一切連絡を取り合っていなかったはずだ。

詩織は今も明良の事を許した訳ではない
だから言いたいことはたくさんある。
詩織が明良に向かって何かを言おうとしたら一海に制された
「何しに来たんですか?」
一海が話しかけた。
どのくらいの沈黙が流れたのだろうか
ほんの数秒だったかもしれないが2人にはとても長く感じた。
「・・・・沙希がどこにいるかご存知ですか?」
どうやら沙希が詩織の店で働いている事を明良は知らなかったようだ。
「そんなことを聞いてどうするんだ?」
一海の感情のない声が響く。
「沙希に会いたいんだ。」
その言葉に詩織が反応した。
「今さら会ってどうするって言うの?やっと・・・やっとあの子は・・」
「詩織・・・俺が話す。」
詩織を気遣うように一海は詩織の言葉を途中で消した。
「明良君。悪いが詩織は今お腹に赤ちゃんがいるんだ。
心配かけたくないから2人だけで話しをしたい。」
「いっくん!」
一海は詩織を見つめ
「大丈夫。俺に任せて・・・それよりも雄太と先に帰っていてくれ」
そういうとポケットから車のキーをさし出した。
「とりあえず車とりに行っておいで。雄太が寝てるからその間、僕がおぶっているから」
詩織は腑に落ちない様子だったがキーを受け取ると軽く明良を睨んで
駐車場へと歩いて行った。
「とりあえず・・・店の中で話をしよう・・」
一海は店のシャッターを半分だけ開けると、明良に中に入るようにいうと
自分は詩織の車が来るのを待った。
間もなく車が到着したので後部座席のドアを開け、
チャイルドシートに乗せた。
「いっくん」
本当は詩織だって一緒にいたいはずだ。
でも2対1じゃフェアじゃないと思ったし、詩織じゃ感情的になりすぎて余計に事が大きくなるのではという思いもあって一海は詩織を先に返すことにしたのだ。
「大丈夫。沙希ちゃんには僕や詩織、雄太に・・・春斗くんがいる。大丈夫」
「・・・・・・わかったよ。」
「うん。・・・それとこの事を沙希ちゃん達にはまだ言わないように」
詩織は黙って頷いた。
雄太が寝てくれていたことは感謝しなきゃいけない。
子供は何でも話しちゃうから・・・
そして詩織は一海に手を振り帰った。
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