きっともう大丈夫
「春斗くん」
「はい」
「沙希ちゃんから明良の事は聞いたんだよね。」
「はい。今日聞きました」
一海さんは真剣な面持ちでハルを見ていた。
「僕も詩織も沙希ちゃんが苦しんでるのを一番間近で見てきた人間だ。
 自分が一番愛していた人に裏切られることがどんなに辛いことかも。
だから僕も詩織も沙希ちゃんには幸せになってもらいたい。」
「はい。僕も同感です。
沙希さんから離婚の経緯を聞いた時はショックでした。
それは結婚していたからという意味ではありません。
もっと自分が大人だったら、もっと早く彼女と再会していたら
僕が幸せに出来たのにって・・・・彼女が苦しむ事もなかったって思ったんです。」
「ハル・・・」
目頭が熱くなるのがわかった。
「失礼だけど、春斗君はいくつ?沙希ちゃんより・・・若そうだよね。」
「はい。今26歳です。」
「沙希ちゃんは詩織と同じ35歳だけど・・・・沙希ちゃんとはただお付き合いするだけなのかな?」
ハルは私の顔を見るとやさしく微笑み
「いいえ、結婚したいと思ってます。僕は彼女に9年も片思いしていたんです。彼女が僕を受け入れてくれるというのであれば僕はいつでも・・・
そのために今まで頑張ってきたんですから」
ハルの言葉に一海さんが初めて微笑んだ。
そして一海さんの視線は私に向けられ
「沙希ちゃん」
「はい」
「よかったね。いい人に再会できて・・もう9年前みたいに手放しちゃだめだぞ。」
私は強く頷いた。
「それに、僕たちもこれから忙しくなるから
いつまでも沙希ちゃんの親代わりは出来ないしね・・・」
含みのある言い方だと思い詩織を見ると、
詩織はいきなり私に向かってピースをしてきた。
「な・・なに?そのピースは・・・」
するとハルは何かを察したようで
「詩織さんもしかして・・・妊娠?」
すると詩織は私を小馬鹿にした様な顔で
「さっすがハル。頭がキレる男は違うね。沙希」
かえす言葉もございません。
「沙希・・」
「何?」
「こんないい男、絶対手放しちゃだめよ。・・よかったね沙希」
「ありがとう。詩織こそおめでとー!」
それから4人でいろんな話をした。
ほとんどはハルの知らなかった空白の9年間の話・・
そしてもう一つ
「あ!そう言えば・・・・沙希・・・あんた、雄太はどうすんの?」
聞いたことのない男の名前にハルは私の顔を見た。
それに気がついた詩織が
「あーごめんごめん。雄太っていうのはうちの息子」
すかさず私が補足を入れた。
「4歳よ。来月で5歳よね。」
ハルがホッと胸をなでおろすと
「で?その雄太君がどうしたんです?」
その言葉に詩織と一海さんが顔を見合わせてニヤッと笑った。
ま・・・まさか・・・
「実はさ~うちの雄太、沙希にプロポーズしたのよね~~
だからあんたたちー結婚するなら雄太に許しをもらわないとやばいよ」
「え?プロポーズ?」
ハルが沙希に問いただす。
「なんかね~保育園のお友達にも私と結婚するって言いまくってるらしくって・・ま~雄太が結婚出来る年齢になる頃には私も50?だから冗談に決まってるけどね。あははは・・・・」
「・・・・なんか頭痛くなってきた」
頭を抱えるハルだった。
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