先生、甘い診察してください



お互い何も言わず、時間が経過した。



「……あやちゃん」



ようやく口を開いた大橋先生が、白衣を掴む私の手をそっと両手で覆った。



ドキッとして、先生の顔を見ると、穏やかな表情をしてた。


それと同時に過ったのは、何故か“嫌な予感”だった。




「ありがとう。嬉しい…。すごく、嬉しいよ」


素直に喜べなかった。


だって、わからなかったから。


先生がその言葉を、本心で言ってるのか、義理で言ってるのか。



「本当に、気持ちは嬉しいよ?…こんな僕を、好きになってくれて」



……嫌な予感がする。


さっきからずっと、嫌な予感しかしなくて、心臓がドクンドクンって、違う意味でうるさい。




「でもね」



あぁ、やっぱり的中した。嫌な予感が当たった。


これは確実に……、




「僕じゃなくても、もっと他に良い人がいるよ。僕じゃ、合わないよ」



フラれるパターンだ。




「……ごめんね」



フラれた。


終わった。恋が終わった。



頭の中が真っ白になった。










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