先生、甘い診察してください
癒えない痛み
失恋の痛みも歯の痛みも、癒える事ないまま、時間だけが過ぎていった。
「んっ…。いったぁ……」
歯の痛みはますます強くなっていく一方。
市販の痛み止めを飲んでも全く効果なし。
「あや、大丈夫?はい、濡れタオル。これで冷やしな」
「ありがとう…、お兄ちゃん」
濡れタオルを受け取って、左頬に当てた。
リビングのソファーに横になって、ズキズキ痛む方の頬をさすってみても、全然楽にならない。
「…あや、そろそろ…病院、来ない?」
「……」
「これ以上、放置してるのを見過ごすのは…さすがにちょっと…」
私の頭をそっと撫でながら話すお兄ちゃんの口調は、穏やかだけど、ちょっと悲しそうだった。
「俺が治療しようか?自慢じゃないけど、腕は結構…自信あるし」
「…嫌」
「じゃあ、他の歯医者行く?1人で行きづらかったら、付き添うし……」
「…いい。絶対、嫌」
大橋先生に会うのは気まずいけど、他の歯医者さんに行くのはもっと嫌。
……こんなの、ただの我儘だ。
「ん~、困ったなぁ……」
お兄ちゃんは怒りもせず、ただ苦笑いを浮べた。