先生、甘い診察してください



ずっと私が診察台に座るのを待ってた先生だけど、



「はぁっ……」



大きなため息が聞こえてきた。


怒った?




「しょうがないなぁ……よっと」

「ひゃあっ!!」



宙に浮いた体。



「おっ、下ろしてくださいっ…!」

「こらこら、暴れないで」



お姫様抱っこされて、ゆっくり診察台の上に下ろされた。



エプロンが付けられて、先生は横の椅子に座って手袋をして、マスクをした。


久しぶりの歯医者さんに、一気に緊張に支配された。




「まずは、痛い歯を診てみようね。倒すよ」



ゆっくりと倒されていく体。




頭上のライトが点けられ、口元が明々と照らされた。


カチャっとトレイからミラーを取る音がしたと思ったら、頬に先生の左手が添えられた。




「大きくあーんして。診るだけだからね」



口を開けるよう促されたけど、



「っ……」



私は口を開かず、添えられた手を払いのけて思い切り顔を先生から背けた。




恥ずかしさとか恐怖心で、どうにかなっちゃいそう。





「あやちゃん、それじゃあ診察できないよ?お顔はこっち向けてほしいな」



こんな子供みたいな事をする私に、相変わらず先生は優しかった。



< 168 / 497 >

この作品をシェア

pagetop