先生、甘い診察してください
ずっと私が診察台に座るのを待ってた先生だけど、
「はぁっ……」
大きなため息が聞こえてきた。
怒った?
「しょうがないなぁ……よっと」
「ひゃあっ!!」
宙に浮いた体。
「おっ、下ろしてくださいっ…!」
「こらこら、暴れないで」
お姫様抱っこされて、ゆっくり診察台の上に下ろされた。
エプロンが付けられて、先生は横の椅子に座って手袋をして、マスクをした。
久しぶりの歯医者さんに、一気に緊張に支配された。
「まずは、痛い歯を診てみようね。倒すよ」
ゆっくりと倒されていく体。
頭上のライトが点けられ、口元が明々と照らされた。
カチャっとトレイからミラーを取る音がしたと思ったら、頬に先生の左手が添えられた。
「大きくあーんして。診るだけだからね」
口を開けるよう促されたけど、
「っ……」
私は口を開かず、添えられた手を払いのけて思い切り顔を先生から背けた。
恥ずかしさとか恐怖心で、どうにかなっちゃいそう。
「あやちゃん、それじゃあ診察できないよ?お顔はこっち向けてほしいな」
こんな子供みたいな事をする私に、相変わらず先生は優しかった。