先生、甘い診察してください
「あっ!!」
ふと、私は重大な事を思い出した。
「私…今、お金…持ってないです」
そう。強引に連れて来られたもんだから、お財布を持ってきてない。
ちなみに携帯も。
「な~んだ。そんな事かぁ」
結構重要な事だと思うんですけど!!
「いいよいいよ、お金なんて。タダでいいから」
「でも……」
時間外診療をさせておいて、タダっていうのは……。
「そんじゃ…お代は」
チュッと、脳内でリップ音が聞こえた。
「これがお代って事で、どうかな?」
ついさっき、一瞬だけ、唇に柔らかいものが触れた。
「いっ…今、キス……」
「あ、嫌だった?予告もなくしちゃって、ごめんね」
「いえ…そんな事は……」
不意打ちなんて卑怯です!!
心臓が爆発するかと思った。
「さっ。これからご飯でも食べようか。僕の家で一緒に食べよう」
可愛らしい笑顔に、胸がキュンっと音を立てた。
「あ、でも…お兄ちゃんが……」
「翔太くんには僕から連絡しとくから。待合室で待っててくれる?すぐ片付けて、着替えるから」
「はい!」
今日から私は、この人の彼女。
まさか、歯医者さんで恋が始まるなんて…。
人生、何があるか、わかんないなぁ。