先生、甘い診察してください
診察室に入ると、消毒液の匂いが強くなった。
背中を押されて診察台へと誘導された。
「相当緊張してるね~。2回目だけど、まだ慣れない?」
「は、はい…」
「可愛いなぁ~」
横の椅子に座って、おそらくカルテであろう書類を見ながら、サラッと爆弾発言。
“可愛い”なんて気安く口にしちゃ、ダメですよ…。嬉しいけど。
先生にとって、所詮私はただの患者さんでしかないんだろうな…。
ゆっくりと、倒されていく診察台。
チラッと先生の方を見ると、目が合った。
ニコッと、マスクをしててもわかるくらいの優しい笑顔を向けてくれた。
「今日も、痛いですか…?」
今日も私、泣いちゃうのかな?
「ううん、痛い事はないよ?また根っこの洗浄をして、虫歯を1本治そうね」
そうだった…。治さないといけない歯がまだまだあるんだった…。
「あーんしてくれる?」
カチャって音がした。ミラーが歯に当たる音だ。
「…うん。炎症は落ち着いてるね。この歯、もう痛んだりはしない?」
口を開けたまま、小さく頷いた。
人前で大口を開けるのって、やっぱ恥ずかしい。