先生、甘い診察してください

「帰ってくるの、早いね?お仕事…早く終わったの?」


動揺して、声が裏返った。咄嗟に薬を後ろに隠した。



「うん…。今日は、早く上がっていいよって言われたから…。だから早く帰ったんだけど…」

「そ、そっか…」



お兄ちゃんは訝しげな目で開きっぱなしの引き出しを見て、視線を再び私に移した。



うぅ…。このピンチ、どうやって切り抜ければいいの…?



「さっき何か隠したよね?」

「えっ…」

「後ろに隠したけど…何を隠したの?」

「……」



ただ、後ずさりする事しかできなかった…。



「何を隠したのか、見せて?」

「……」

「この引き出しって…薬が入れてあるトコだけど、やっぱ具合悪いんでしょ?」

「それは……」

「あや、ちゃんと答えなさい」



ジリジリと距離を詰めてくるお兄ちゃん。後ずさりしかできず、次の瞬間。




―ドンッ


「……!」


あっという間に背後の壁に背中がぶつかってしまい、逃げ場はなくなってしまった。


< 5 / 497 >

この作品をシェア

pagetop