先生、甘い診察してください



「痛かったら、左手上げてねー」



お決まりのセリフを言われて、口腔内に入ってくるのは神経治療の道具のファイル。




先生の表情は真剣そのもの。


ジーっと見つめてたら視線に気づいたのか、パッと目と目が合った。


恥ずかしくなって、すぐ目を閉じた。



「痛い?」


わざわざ手を止めて、聞いてきた。


目を閉じたまま、首を横に振った。



「すぐ終わらせちゃうからね」


先生の治療は手早くてあっという間だと、いつも思う。






「お疲れ様。今日の治療は終わりね」



診察台が起こされて、エプロンが外された。


もう、終わっちゃった。





「はい。ご褒美」

「…イチゴ飴」

「うん!やっぱ、あやちゃんにはイチゴがよく似合うから」


あ、笑った。…でも、よく見えない。


「先生、マスク、外さないんですか?」

「あー、外すの忘れてたぁ。歯科医にとって、マスクは体の一部みたいなもんだから」


先生はヘラヘラと笑ってる。




「なんなら、マスク…あやちゃんが外してくれる?」

「えっ!」

「なーんてね」



今の、冗談?


一瞬ドキっとした……。


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