先生、甘い診察してください
「…わからない」
曖昧な回答をした。
恥ずかしいって気持ちがあって、素直に「他にも沁みる歯がある」とは言えなかった。
「そっか…。ねぇ、あや」
「ん…?」
「口の中…見てもいいかな?」
「えっ…!」
お兄ちゃんの口から出た思わぬ言葉につい、大声が漏れた。
「虫歯がどんな状態なのか…ちょっと見せてもらいたいんだけど」
「……」
「ダメ、かな…?」
今まで虫歯になった事がないから、お兄ちゃんに口の中を見せた事なんて1度もない。
いや、小さい頃は歯磨きとかお兄ちゃんにしてもらってたけど、それはあくまで小さかった頃の話。
高校生にもなって、家族に口の中を見せるのはちょっと抵抗がある。
「ごめんなさい…。ちょっと、無理…」
「そっか。わかったよ」
虫歯になったのを隠してても怒らないし、治療勧告を隠してた事も怒らない。ベタ甘だね。
「でも、治療は…ちゃんとしようね」
「……」
それは、1番恐れていた言葉だった。