BitteR SweeT StrawberrY
       *
バイトが終わった帰り道。
もちろんというか・・・
なんというか・・・
ケイとあたしの帰路は同じ。
駅から、マンションへの道を、あたしとケイは、いつものように歩いていた。
ほんとに、後ろから見れば、普通のカップル見えるよね・・・
そんなことを思って、一人で浮かれているのが、ちょっと馬鹿みたい。
ケイは、一人でニヤニヤしているあたしを横目で見ると、可笑しそうに笑って、ぽんってあたしの頭に手を置いた。

「おまえ、何浮かれてんの?」

「え?!いえ・・・っ、そんな・・・浮かれてるとか・・・」

「この間は、泣きながら逃げたくせに・・・今夜は浮かれてるとか、おまえも忙しいな?」

ケイはからかうようにそう言って、思い切り笑った。

「むぅ!だ・・・だって!」

あたしは、思わずムキになってケイを睨む。
ケイは、涼しい顔つきをしてこんなことを聞き返してくる。

「だって、何?」

「うぅっ・・・」

あたしは思わず黙って、顔を赤くする。

「おまえ、ほんと面白いやつだな!」

猫でも撫でるように、ケイはくしゃくしゃとあたしの頭を撫でまわした。

「もぉ!!」

ほっぺを膨らませたあたしを、からかうような視線で見つめて、ケイは、くすくすと笑いながら、ふっとあたしの耳元に唇を寄せる。

「苺・・・食ってくか?」

「え!?」

無駄にドキっとしたあたしは、まじまじとケイの顔を見つめてしまう。
ケイは、悪戯そうな視線をあたしに向けて、小さく首をかしげると、唇だけで微笑んだ。



        *
図々しくも、また、ケイの部屋に上がりこんでしまったあたし。
テーブルの上に置かれたフルーツ皿には、大粒の苺。
新鮮な香りが、広い部屋のなかに充満している。
苺の甘い香りの中に、ほんのりただよう、煎れたてのコーヒーの香り。
あたしは、えへへって笑って、苺に手を伸ばしながら、向かいに座るケイにちらっと目を向けた。
大きめのニットセーター姿のケイは、コーヒーカップを片手に、頬杖をついて、さらさらの前髪の下から、じーっとあたしを見た。

「幼児か?」

「ち・が・い・ま・す!」

「苺好きだな」

「ケイだってそうじゃん!いつも買い置きとか、どれだけ好きなんですか?」

あたしは、あははって笑って、大粒苺を口に入れる。
ケイと苺を食べることが、なんだか、あたしの日常みたいになってきてて、ちょっと可笑しくなった。
ケイは、唇だけで小さく笑って、綺麗な瞳でまっすぐにあたしを見ていた。
そんなケイの手元には、空いてない煙草が一箱。
そういえば、最近、ケイが煙草吸ってるとこ見てないな・・・

「ケイ、煙草・・・・吸わないの?」

「ん?」

「最近、ケイが煙草吸ってるとこ見てない気がして」

「酒も、優子と飲んだ時から飲んでないよ」

「どうして?」

別に、それは、なんの特別な意味もなく、ほんとにごく普通の質問だった。
だけどケイは、少しだけ寂しそうな顔して、唇だけで小さく笑う。

「ほんとは、酒だって飲みたいし、煙草だって吸いたいんだけどな」

「禁酒で禁煙中?」

その質問には何も答えないまま、頬杖を付いたケイは、どこか切なそうに、もう一度、小さく微笑する。

「まぁ、そんな感じ・・・かな?」

あたしは、なんでケイが、そんな笑い方するのか全然わからなくて、思わず、きょとんとしてしまった。
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