BitteR SweeT StrawberrY
      *
午後になって、あたしのバイトが終る間際のことだった。
あたしが片づけをしていると、ぎ~って音がして、ストックヤードのドアが開いた。
あたしは、同じ時間に上がる予定の真帆ちゃんかと思って、伝票整理をしながら、振り返りもしないで、こう言った。

「真帆ちゃん、お疲れさま~!」

でも・・・
返ってきたのは、何故か、愉快そうに笑う男の人の声だった。

「おっつ!残念!真帆じゃないな~・・・・!」

「っ!?」

あたしは、どこかで聞き覚えのあるその声に驚いて、ハッとドアを振り返る。
そこに立っていたのは、サーファーブランドの長Tシャツにジャケットを羽織った、佐野さんだったのだ。

「え?え??あれ?!なんで佐野さん!?」

ついつい困惑してそう声を上げたあたしを、佐野さんは、可笑しそうに笑って見つめ返しながら、こう言った。

「いや、役に立たない店長なんぞいらんってバイトに言われてさ~、ちょっと遊びに来てみたって感じ?」

「ぶ!」

絶対、これは冗談だ!
それは判ってたけど、あたしは、なんだかツボにハマって、思い切り笑ってしまう。

「あははは!
ちょ、そ、それは・・・!それは、なんというか、き、気の毒ですね・・・っ!」

「あ~・・・・気の毒だよな~、まじ、俺、自分でも気の毒だと思うわ」

「どういう答えですか!っていうか、どうしたんですか?ケイに用事ですか?」

「まぁな~・・・・仕事終わるまで邪魔だから、ヤードにでもいとけって、ケイに怒られてさぁ~・・・押し込まれたっていうの?
ああ、もちろん、今日も『優子に変な手だすんじゃねーぞ、出したら殺す!』って脅されたから、なんもしないよ」

「なにいっちゃってんですか!!」

佐野さんの言葉を聞いて、あたしは、ますますツボにハマって、もう必死に笑いを押し殺した。
ケイもそうだけど、佐野さんも、言うことが面白い。
なんだか、ほんとに、ケイと佐野さんて似てるなって、あたしはしみじみそう思う。

でも、そんなことを思う反面、あたしは、どうして佐野さんが、こんな時間に、こんなとこにるのかちょっとだけ・・・いえ、ものすごく気になった。
佐野さんが、ケイに何か用事があるのは確実だけど、一体、どんな用事なんだろう?

ケイ・・・
仕事終わったら、佐野さんと・・・
どこか、いくのかな・・・・?
佐野さんは、ケイと元に戻りたがってる・・・・
ケイにとっての佐野さんは、きっと、特別な存在っていうことも、判ってる・・・
だから余計に、あたしの胸に、色んな不安が過ぎっていく。

でも、『なんの用事なんですか?』なんて、今ここで、佐野さんに聞くわけにもいかず、あたしは、ふっと笑いを収めて、取りあえず、変な愛想笑いをしてしまった。

「あたし、もう仕事上がりなんで、そろそろ行きますね」

「あ~・・・うん」

佐野さんは、ストックヤードの荷物を眺めながら、なんだか上の空な返事をした。
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