BitteR SweeT StrawberrY
    *
「優子、行くぞ」

そう言って、ケイが、事務所にいたあたしに声をかけてくれたのは、5時半を過ぎた頃だった。
事務所のドアから中に入って来たケイは、ごく自然な笑顔であたしの前に立つと、さらさらな前髪から覗く綺麗な瞳で、じーってあたしの顔を見つめる。
あんまり真っ直ぐに見つめるから・・・あたしは、思い切り照れて、顔を真っ赤にしたままうつむいてしまった。

「え・・・あの・・・やっぱり、こういうのって、あたしには・・・に、似合わないかな?」

「よく似合ってるよ。まぁ、いつもの優子とは、ちょっと雰囲気違うから、知り合いに会っても、気付いてもらえない可能性はあるけど」

冗談ぽくそう言って、ケイは、もう一度笑った。

「気付かないかなぁ?」

あたしは、ケイの笑顔に釣られて笑うと、思わずそう聞き返してしまう。

「気付かないと思うよ。まぁ、その時は、追っ駆けてって、本気出せばこれぐらいできるって、言ってやればいい」

「あはは!何それ?」

「んー?それぐらい、言っていいよってぐらい、優子が綺麗だって意味」

ケイはさらっとそう言って、唇で小さく微笑してロッカーの中から、自分のトレンチコートを出した。

「・・・・・っ」

あたしは、ケイが余りにもさらっとそう言ったから、赤い顔をますます赤くして、なんだか一人で、えへへって笑ってしまう。
例え、ケイの言葉がただのお世辞だったとしても、あたしは、すごく嬉しくて、沈んでた気分が、一気に明るくなった。

「行こうか?」

ケイはそう言って、不意に、あたしの手を掴む。

「あっ・・・!」

あたしは、ケイに引きずられるようにして、事務所のドアを出た。
ぎゅうって握られた手があったかくて・・・
あたしは、どきどきしながら、そのままケイの後ろをついていったのだった。

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