BitteR SweeT StrawberrY
ふぅってため息をつきながら、ケイは、呆れたようにこう言った。

「動物は躾してから連れてこい・・・」

「ぶっ」
その言い方が可笑しくて、あたしは、思わず吹きだしてしまう。

「どうしたの?」

「んー?いや・・・オレ、空気読めない馬鹿は嫌い」

飄々とそう言って、ケイは、やっとお料理に手をつける。
あたしは、ちらっと、後ろを振り向いてみた。
すると、そこにはカップルがいて、男の人はあたしに背中を向けていて、声の主ぽい女の子は・・・ものすごく派手な服装をした、見るからにキャバ嬢って感じの子だった。
化粧も派手で、きっと、あたしなんかよりずっと若いと思う。
暗くてよくわからないけど、きっと、19~20歳ってとこ・・・
ケイは、オードブルのお皿に視線を落としながら、もう一度ため息をついて、こう言った。

「どんなに若くても、どんな仕事してても、賢い子は賢いし、馬鹿は馬鹿・・・
こういうとこ連れてくるなら、それなりの躾してから連れてこいって・・・」

「え?」

「ん?連れの男、あの子より年上そうだから」

「うん?」

あたしは、もう一度、ちらっと後ろを振り返って、背中を向けている男の人に視線を移した。
ちょっと猫背な感じのする背中。
その人の着てるベージュのジャケットには見覚えはないけど、そのちょっと猫背な背中を、あたしは、見たことがあった。

「あれ・・・?」

暗くて、ちょっと距離もあるから、確認しずらいけど・・・
この男の人・・・・
なんだか・・・
大輔に似てる・・・

「優子?どした?」

あたしが、不審そうな顔をしたからか、ケイが、小さく首を傾げてあたしを覗きこむ。
あたしは、なんだか変な誤魔化し笑いをして、首を横に振った。

「ううん、なんでもない」

大輔、今日はゴルフって言ってた・・・
だから、こんな時間に・・・
こんな場所に、いるはずがない・・
きっと、ちょっと似てるだけだ・・・

その時あたしは、自分自身にそう思いこませようとしていたのかもしれない。

「ケイは・・・ここのレストラン、よく来るの?」

全然関係ない話を振ったあたしに、ケイは、ナイフとフォークをお皿の端において、頬杖を付きながら、ちょっと意地悪そうに笑う。

「うーん・・・よくって程でもないけど、まぁ、たまに。
前は、結構連れていかれたけど・・・最近は来てないかな」

「・・・誰に、連れてきてもらってたの?」

思わずそう聞いてしまって、あたしはハッする。

「あぁ、ごめん、余計なことだよね」

「また謝ってるし」

ケイはそう答えて笑うと、ふっと窓の外に目を向けて言葉を続けた。

「昔は、なんか、結構色んなやつがうろちょろしてたから・・・
どっかのカメラマンとか、スカウトマンとか・・・
雑誌の記者とか・・・まぁ、その辺の連中に」

「あ~・・・佐野さんもそんなこと言ってた!モデルさんとかタレントさんのスカウトも来てたんでしょ?」

「ガク・・・余計なこと吹き込んだな・・・」

ケイは、ちょっとだけ拗ねたような顔つきになって、ぽつんとそんなことを呟く。


< 130 / 247 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop