BitteR SweeT StrawberrY
ケイは、ギャルソンさんが持っている、テーブルチェック用のトレイに一万円札を乗せながら言う。

「これチップだから、取っといて。ああ・・・それと、クリーニング代も入ってるから、よろしく」

ギャルソンさんは、きょとんとして、まじまじとケイの綺麗な顔を見る。
ケイは、なんだか意味深に笑ってから、あたしに振り向いて、こう言った。

「行こう、優子」

「え?あ・・・・あの・・・」

「大丈夫。行こうか?」

「う・・・うん」

すっかり青いに顔になったあたしが立ち上がると、ケイは、すって手を出して、あたしの手を引くように、エントランスへと歩いていく。
その途中には、大輔たちのいるテーブルがあった。
あたしは、うつむいたまま、大輔のテーブルを通りすぎようとした・・・
でも、その時、あたしの手を引くケイが、不意に足を止めたのだ。

「え!?」

あたしは驚いて、はっとケイの顔を見る。
ケイは、びっくりするほど冷静な顔をして、ただ唇だけに冷笑を浮かべたまま、テーブルにいる大輔を見る。
あたしたちに気が付いた大輔と、あの女の子が、きょとんとした顔をして、テーブル脇に立ったあたしをケイを見た。

大輔の視線は、ケイの冷笑を不思議そうに見つめてる。
その視線は、あたしの方を見ない。
きっと、まだ、あたしだって気付いてないんだ・・・

「ん?なんですか?」

大輔はきょとんとした顔つきで、ケイにそう聞いた。
ケイの唇が、にやって・・・ほんとに、びっくりするぐらい冷たく笑った。
ケイは、大輔のテーブルのシャンパンの瓶を片手で掴み、その口を大輔の頭に向けて逆さにする。

「!?」

瓶から零れ落ちた金色のシャンパンが、しゅわしゅわと軽い音を上げて、大輔の頭を濡らしていった。

「なぁっ!」

大輔は、顔も髪も服もシャンパンまみれになりながら、何が起こったのか、まったく訳がわからないというような顔をして、唖然と椅子に座っていた。
一緒にいた女の子が、きょとんと目を丸くして、じーってケイの冷たい横顔を見つめて、何故かこう言った。

「ちょ!うわ、すげ!超かっこいいんだけど・・・っ!」

呆然とする大輔を冷たい瞳で一瞥して、ケイは、空になったシャンパンの瓶をテーブルの上に置く。
そして、鼻先で笑うと、あたしに振り向いてこう言った。

「じゃ、行こうか?優子?」

「え!?」

びしょ濡れになった大輔が、その時初めて、あたしに振り返る。
それこそ漫画みたいに、物凄い驚いた顔であんぐりって口を開きっぱなしにして、がくがくと震えてるあたしを見た。

「え?!あれ?!なんで!?優子・・・ちゃん?」

あたしは、ぎゅって唇を噛み締めて、大輔から目を逸らした。
ケイはあたしの手を強く握ったまま、早足でエントランスへと歩いていく。

「大ちゃんめっちゃカッコ悪る~~!あはははっ!」

そんなあたしとケイの背中の方で、さっきの女の子が、ものすごい勢いで笑って、呆然としてるだろう大輔にそう言ったのが聞こえた・・・・

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