BitteR SweeT StrawberrY
喉仏もないし、声だって低い方だけど、決して男の人の声じゃない。
それに、すらっと背は高いけど、ケイの体格は華奢な方だ・・・男か女かぐらい、すぐに判別できるはず。
ケイが女だって気付いた大輔は、一瞬、バツが悪そうな顔をしたけど、開き直って怖い表情を作ると、今度は、噛み付くようにしてケイにこう言った。

「おまえ!どうしてくれんだよ!この服とか!クリーニング代ぐらい出すんだろうな!?」

それを聞いたケイは、失笑する。
あたしは、冷静な顔つきをするケイと、顔を真っ赤にした大輔を交互にみながら、どうしたらいいかわからなくなって、何も言えずに、ただ、おろおろするばかりだった。
そんなあたしの目の前で、ケイは、ふぅってため息をつくと、びっくりするぐらい冷静な声で言う。

「クリーニング代云々の前にさ、ちゃんと優子に謝ったら?
なんでシャンパンを頭から飲むことになったか、すこし考えてみ?
仮にアタシが男で、優子と此処で飯食ってしてたとしても、おまえ、人こと言えないんじゃないの?
あの女の子、一体誰か、おまえ、ちゃんと優子に説明してやったら?
今日は優子、誕生日だぜ?
特別な日なはずなんだけど・・・そんな日に、おまえこそ何やってんの?」

ケイは、そこまで言って、冷たい表情のままくすくすと笑う。
ケイの言葉は、あまりにも的確すぎて、大輔は、怒った表情のまま何も言えずに、ぶるぶると握ったこぶしを震わせていた。
大輔が、今にもケイを殴りそうで、あたしは、咄嗟にケイの手を引っ張った。

「だ、大丈夫だよ!もういいよケイ!行こう!」

ケイはそんなあたしに視線を向けて、唇の隅で小さく笑うと、不意に大輔に向き直って、愉快そうな表情でこう言った。

「あぁ、一つ大事なこと教えとくよ。
女がマグロになるのは、男が下手くそだからだぞ。
つまり、おまえは下手くそってこと・・・よく覚えとけ!」

「っ!?」

あたしは、びっくりしてケイに振り返る。
ケイは、あははって笑って、あたしの手をぐいって引っ張ると、そのまま、歩道へと歩いて行ってしまう。
ケイの最後の一言が、アッパー並に効いてしまったのか、大輔は、呆然としたまま、ホテルのエントランスのところで立ち尽くし、それ以上追ってくることも、何か言葉を発することもなかった。

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