BitteR SweeT StrawberrY

               *
『夕飯でも食いにいくか~?』

そんなケイの一言で、あたしは、またしてもケイに付き合わされることになってしまった。
戸締りをしてくるという、ケイとスタッフの人たちを裏口で待ちながら、なんとなく、そわそわしながら、あたしは、路地の雑踏を背中で聞いてた。

ここ何日か・・・あたしは、何かがおかしい。
間違いなくおかしい。
なんで、こんなに落ち着かないんだろう・・・・
ケイは女の人だし、なにも、こんなにどきどきなんて・・・しなくていいのに。
なんでこんなに、どきどきして、その上、そわそわして、落ち着かないんだろう?

ほんとに、馬鹿じゃないの、あたし・・・
そんなあたしの耳に飛び込んできたのは、とっても元気の良い女の子の声。

「ケイちゃ~~ん!行こう!ごは~~~ん!」

振り返ると、お店の裏口から、あのレジにいた女の子・・・増岡 雛乃ちゃんが、跳ねるように出てきていた。
そんな雛乃ちゃんの素足にミニスカっていうファッションを見て、あたしは、なんだか・・・
ほんとにおばさんみたいだけど、若さが違う・・・かも・・・って、今更なら絶望してみた。
なんだか、ぼーっとしてしまったあたしの目に、ケイの姿が映る。
ケイは、コバルトブルーのトレンチコート姿で、雛乃ちゃんの後ろを笑いながらついてきていた。

「幼児だな」

「いいんだも~ん!幼児でいいも~ん!」

「幼児にはなにもできないぞ?捕まるし」

「え~~~!それじゃやだよ~~~!お疲れちゅーしてくれないとやだ~~~~!!!」

雛乃ちゃんはそう言って、あたしの目の前で思い切り、ケイに抱きついていった。
そして、もう、まるで、周りに人なんかいないみたいに、犬がご主人様に飛びつくみたいに、ケイにキスした。

「・・・・っ!!?」

あたしは、そんな様子をただ唖然として、見つめていた。

これは・・・
一体・・・
どんな世界なの???
お疲れ様のキスって・・・これのことだったんだ・・・
ケイがあたしにしたキスも、これと同じ分類ということ・・・なんだ、ね??

言葉も失って、ぽかーんとしてるあたし。
そんなあたしの隣に、いつの間にか立っていた新城さんが、おかしそうに言った。

「あれ、初めて見ると驚くでしょ?でもさ、うちの店の女の子たち、みんなああなんだよね~」

「えっ!?み・・・みんな???」

「そそ、みんな」

「ど、どういう・・・っ!」

「ああ・・・うちの店長さ・・・ケイさん、男にも女にもモテるタイプっていうか・・・
なんか、女の子にめっちゃ好かれるっていうの?あんな感じだし。
でもさぁ~・・・・お疲れちゅーしてもらえるの、女の子だけだったりするんだよね~」

新城さんは、何故かちょっと残念そうにそう言って笑う。

あたしにとっては、もう世界が・・・違いすぎて、ただ、呆然とするのが精一杯だった。
そうなんだ・・・
いや、もちろん、そうに決まってるけど・・・
この間のキスは、ほんとに、これの延長だったんだ・・・

それはわかってるけど、あたしは、何故か、変に複雑な気分になってしまって・・・
ちょっとだけ、気分が沈んだ。


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