BitteR SweeT StrawberrY
【16】~rY~
*
救急車が着いた病院は、偶然なのか、ケイの部屋にあった、あの薬袋の大学病院だった。
あたしは、ストレッチャーで処置室に運び込まれるケイを見送ると、そのドアの前で立ち竦んだ。
不安で不安で仕方なくて、足も手もガクガクと震えて、どうしたらいいのか、何もわからずに、ただ、呆然としてしまう。
ケイは、ちゃんと助かるよね…
大丈夫だよね…
必死でそう自分に言い聞かせていたあたしに、処置室から出てきた看護師さんが、こう尋ねた。
「ご家族の方ですか?妹さんかしら?」
あたしは、ハッとして、看護師さんの毅然とした冷静な顔を見つめると、慌てて首を横に振った。
「い、いえ、違います…と、友達…です」
「そうですか。田所さんのご家族と連絡は取れますか?」
「え!えと…あの…」
そう聞かれてあたしは、なんだか戸惑ってしまった。
そう言えばあたし、ケイの家族のこととか、何も知らない…
そう思った時、あたしの頭に、ぱっと佐野さんの顔が浮かんだ。
佐野さんなら、ケイの家族のこと、知ってるかもしれない!
「あ、あの!ちょっと思い当たる人がいるんで…で、電話かけてきます!」
「そうですか…じゃあ、よろしくお願いします」
あたしは、看護師さんに頭を下げて、慌ててロビーへと走った…
*
「佐野さん!佐野さん!大変なんです!ケイが!ケイが!」
半べそをかきながら、あたしは、携帯ごしの佐野さんにそう叫んでいた。
電話口の佐野さんは、あたしのその取り乱し方で、何が起こったのか察したらしく、驚くほど冷静な声で、あたしにこう言った。
「まぁ、落ち着け。大丈夫だから。ケイが…倒れたんだな?」
「は、はい!さっき、ここに…!誠晋医大病院に、救急車で運ばれて!
あ、あたしも今、そこにいます…っ」
「うん…そうか。今から行くよ。おまえ、まだそこに居られるか?」
「は、はい…大丈夫です。い、居られますっ」
「うん…じゃ、俺が行くまで、アイツのそばにいてやってくれ」
「はい!あっ…それと」
「ん?」
「看護師さんにケイの家族と連絡が取れるかって聞かれて…佐野さん、連絡先、わかりますか?」
あたしがそう聞くと、佐野さんは少しだけ黙ってから、落ち着いた声でこう言った。
「アイツ…天涯孤独なんだ」
「え?」
「何かあった時の身元引き受け人、俺になってるから。病院にはそう伝えてくれ」
「あ…はい…わ、わかりました…」
あたしはそう答えて、大きく深呼吸すると、「失礼します」と言って電話を切った。
佐野さんが冷静だったせいか、やっと気持ちが落ち着いたあたしは、もう一度、ERへ戻った。
ERの入口にいた看護師さんに、佐野さんに言われた事をそのまま伝えて、あたしは、廊下の端にあるベンチに腰を下ろす。
自分のバックを脇に置いて、ケイのコートをぎゅって抱きしめながら、あたしは、不安な気持ちのまま、足元に視線を落としたのだった。
佐野さんは、ケイが天涯孤独だって、そう言った…
それはつまり、ケイには、両親も兄弟もいないって事になる…
あたしは今まで知らなかった…
ケイが、そんなに孤独な身の上だって事に…
あたしは、結局、何もケイの事を知らないんだなって、そう思って、何だか、自分が情けなくなってしまった。
ERでは、まだ、処置が続いてるらしい。
あたしは、佐野さんが来るまで、ただ、じっと待つしか手立てがなかった…
救急車が着いた病院は、偶然なのか、ケイの部屋にあった、あの薬袋の大学病院だった。
あたしは、ストレッチャーで処置室に運び込まれるケイを見送ると、そのドアの前で立ち竦んだ。
不安で不安で仕方なくて、足も手もガクガクと震えて、どうしたらいいのか、何もわからずに、ただ、呆然としてしまう。
ケイは、ちゃんと助かるよね…
大丈夫だよね…
必死でそう自分に言い聞かせていたあたしに、処置室から出てきた看護師さんが、こう尋ねた。
「ご家族の方ですか?妹さんかしら?」
あたしは、ハッとして、看護師さんの毅然とした冷静な顔を見つめると、慌てて首を横に振った。
「い、いえ、違います…と、友達…です」
「そうですか。田所さんのご家族と連絡は取れますか?」
「え!えと…あの…」
そう聞かれてあたしは、なんだか戸惑ってしまった。
そう言えばあたし、ケイの家族のこととか、何も知らない…
そう思った時、あたしの頭に、ぱっと佐野さんの顔が浮かんだ。
佐野さんなら、ケイの家族のこと、知ってるかもしれない!
「あ、あの!ちょっと思い当たる人がいるんで…で、電話かけてきます!」
「そうですか…じゃあ、よろしくお願いします」
あたしは、看護師さんに頭を下げて、慌ててロビーへと走った…
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「佐野さん!佐野さん!大変なんです!ケイが!ケイが!」
半べそをかきながら、あたしは、携帯ごしの佐野さんにそう叫んでいた。
電話口の佐野さんは、あたしのその取り乱し方で、何が起こったのか察したらしく、驚くほど冷静な声で、あたしにこう言った。
「まぁ、落ち着け。大丈夫だから。ケイが…倒れたんだな?」
「は、はい!さっき、ここに…!誠晋医大病院に、救急車で運ばれて!
あ、あたしも今、そこにいます…っ」
「うん…そうか。今から行くよ。おまえ、まだそこに居られるか?」
「は、はい…大丈夫です。い、居られますっ」
「うん…じゃ、俺が行くまで、アイツのそばにいてやってくれ」
「はい!あっ…それと」
「ん?」
「看護師さんにケイの家族と連絡が取れるかって聞かれて…佐野さん、連絡先、わかりますか?」
あたしがそう聞くと、佐野さんは少しだけ黙ってから、落ち着いた声でこう言った。
「アイツ…天涯孤独なんだ」
「え?」
「何かあった時の身元引き受け人、俺になってるから。病院にはそう伝えてくれ」
「あ…はい…わ、わかりました…」
あたしはそう答えて、大きく深呼吸すると、「失礼します」と言って電話を切った。
佐野さんが冷静だったせいか、やっと気持ちが落ち着いたあたしは、もう一度、ERへ戻った。
ERの入口にいた看護師さんに、佐野さんに言われた事をそのまま伝えて、あたしは、廊下の端にあるベンチに腰を下ろす。
自分のバックを脇に置いて、ケイのコートをぎゅって抱きしめながら、あたしは、不安な気持ちのまま、足元に視線を落としたのだった。
佐野さんは、ケイが天涯孤独だって、そう言った…
それはつまり、ケイには、両親も兄弟もいないって事になる…
あたしは今まで知らなかった…
ケイが、そんなに孤独な身の上だって事に…
あたしは、結局、何もケイの事を知らないんだなって、そう思って、何だか、自分が情けなくなってしまった。
ERでは、まだ、処置が続いてるらしい。
あたしは、佐野さんが来るまで、ただ、じっと待つしか手立てがなかった…