BitteR SweeT StrawberrY
  *
佐野さんが病院に着いたのは、それから、30分ほど経った時の事だった。
あたしはベンチに座ったまま、目の前に立った佐野さんの長身を、泣きそうな顔で見上げてしまった。
佐野さんは、そんなあたしの顔を見て、困ったように笑うと、柔らかな口調でこう言ったのだ。

「連絡くれて、ありがとな…」

「い、いえ…」

あたしは、小さく首を横に振った。
佐野さんは、どこか切なそうな表情になって、唇だけで軽く笑うと、無言のまま、ERへと歩いて行った。
中にいた看護師さんと何か話て、それから、また、ゆっくりとあたしの所へ戻ってくる。
未だに不安そうな顔をしてるだろうあたしに、佐野さんは言った。

「これから検査だってよ」

「え?ケイが…ですか?」

「うん。時間かかりそうだから、もう帰っていいぞ。後は俺がいるから。明日、仕事だろ?」

「は、はい…で、でも…っ」

「ん?」

「もうちょっと、居ます…むしろ、居させて下さい…」

うつむいてそう言ったあたし。
佐野さんは、少しの間沈黙して、ちょっとだけ笑う。

「そうか。優子がそれでいいなら、止めないけどな…」

「はい…すいません」

「なんで謝るんだよ?」

「いえ…なんとなく」

そう答えたあたしを見つめて、佐野さんは、可笑しそうにくすくすと笑うと、言葉を続けた。

「ケイ…優子が一緒にいる時に、倒れてよかったよ。一人だったら、救急車も呼べなかったかもな」

「いえ、あたしなんか…全然、何の役にも立たなくて…おろおろしてました…
あの…佐野さん?」

「ん?」

「ケイ…喘息持ちだったんですか?」

「……」

佐野さんは、答えに困ったように、ただ、じっとあたしの顔を見つめるばかりだった。
佐野さんのその反応に、なんだか変な違和感を覚えて、あたしは、首を傾げながら、言葉を続ける。

「え?喘息じゃ…ないんですか?」

佐野さんは、また、切なそうに笑うと、冷静な声でこう答える。

「なんだ…アイツ…まだ、なんも言ってなかったのか…
まぁ…優子には、言いたくても、言えなかったのかもな…」

「え?あの…」

あたしが、そう聞こうとした時だった、ERから、救急救命の文字が入った医療服を着た男の人が出てきたのだった。

「田所さんの身元引き受け人の方ですか?」

救命のお医者さんかと思うその人は、冷静な顔で佐野さんを見る。

「はい。で、具合、どうなんですか?アイツ…?」

佐野さんは、ゆっくりとお医者さんに向きなおって、落ち着いた声でそう聞いた。

「ご説明します。こちらへどうぞ」

お医者さんは、ICUの隣にある診察室に向かって歩いていく。
佐野さんは、ちらっとあたしに向き直って、こう言った。

「優子は…どうする?待ってるか?一緒に行くか?」

あたしは、少し戸惑ったけど、佐野さんの冷静な顔を見つめながら、小さくうなずいた。
自分のバックと、ケイのコートを抱えて、あたしは、佐野さんと一緒に、診察室に入る。
デスクの上のパソコンに開いた、電子カルテ。
その上には、CTの写真が貼ってある。
椅子に腰かけた佐野さんの後で、あたしは、不安になりながら、お医者さんの説明を待った。
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