BitteR SweeT StrawberrY
お医者さんは、電子カルテとCT画像を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「田所さんの容態は落ち着きました。今夜はICUに入ってもらって、明日、担当医の診察を受けてもらおうと思います」
「はい」
佐野さんは、落ち着いた様子で小さくうなずいた。
お医者さんは言葉を続ける。
「当院で現在通院治療中となっているので、ご存じかとは思いますが…肺がんですね。恐らく、三年前の乳がんが、再発転移したものでしょう」
「えっ?」
お医者さんの言葉を聞いて、あたしは、びくっとしてしまった。
今…
乳がんからの、再発転移って…
肺がんって…
そう言ったよね?
あたしは、自分の足がガクガクと震えてくるのがわかった。
恐る恐る、佐野さんの顔を見ると、佐野さんは至って冷静な表情をして、ただ、黙ったまま、お医者さんの話を聞いていた。
「このCT画像を見ると、ステージが3に移行したようです…
まだお若いんで、少し進行が早いかと思います。今後の治療計画については、また明日、担当医と話あってください」
「あの…アイツ…生きられますか…?」
佐野さんが、 真剣な表情で先生にそう声をかける。
先生は少し難しい顔をしてこう言った。
「そうですね…抗がん剤や放射線での治療が効けば…まぁ、延命は可能かと思います。
上腕に骨転移の所見も軽く見受けられるので、この時点では、なんとも…」
あたしの頭の中に、そう言ったお医者さんの声が、共鳴するようにぐるぐると回っていく。
お医者さんは、延命は可能だって…
そう言った…
でも、それって…
つまり…
つまり…
あたしは、愕然として、ただ、お医者さんの顔を見つめるだけだった。
知らなかった…
全然、気付きもしなかった…
ケイが…
ケイが…
がんだったなんて…
時々、具合が悪そうにしてたのは、そのせいだったんだ…
それなのに…
あたしは…
能天気に、自分の話ばっかりして…
泣いてみたり、今夜みたいに迷惑かけてみたり…
あたし…
あたし…ほんとに馬鹿だ!
抱えていたケイのコートをぎゅって抱きしめると、あたしは、泣き出したい衝動にかられて、思わず、診察室から飛び出してしまった。
佐野さんが、少し驚いたみたいに、あたしを振り返ったのがわかったけど、あたしは、足を止める事ができなくて、 全力疾走でロビーまで走った。
そして、あたしは。誰もいないロビーの床に、ぺたんって座りこんでしまう。
「あたしのばかぁ…」
あたしはケイのコートを抱きしめたまま、声を殺して泣いた。
なんでもっと早く、気付いてあげられなかったんだろう…
一杯、一杯、迷惑かけて…
あたしは、いつも、自分の気持ちばっかり、ケイに押し付けて…
あたしは…
あたしは、なんて自分勝手なんだろう…
「うぅっ…うぅっ…!」
肩を震せて、一人で泣いてたあたしの耳に、ふと、こっちに近寄ってくる、足音が聞こえた。
あたしは床に座り込んだまま、顔も上げずに嗚咽する。
その足音は、あたしの後で止まった。
「感傷的だな…優子は?」
どこか可笑しそうにくすくすと笑うその声は、佐野さんの声だった。
「田所さんの容態は落ち着きました。今夜はICUに入ってもらって、明日、担当医の診察を受けてもらおうと思います」
「はい」
佐野さんは、落ち着いた様子で小さくうなずいた。
お医者さんは言葉を続ける。
「当院で現在通院治療中となっているので、ご存じかとは思いますが…肺がんですね。恐らく、三年前の乳がんが、再発転移したものでしょう」
「えっ?」
お医者さんの言葉を聞いて、あたしは、びくっとしてしまった。
今…
乳がんからの、再発転移って…
肺がんって…
そう言ったよね?
あたしは、自分の足がガクガクと震えてくるのがわかった。
恐る恐る、佐野さんの顔を見ると、佐野さんは至って冷静な表情をして、ただ、黙ったまま、お医者さんの話を聞いていた。
「このCT画像を見ると、ステージが3に移行したようです…
まだお若いんで、少し進行が早いかと思います。今後の治療計画については、また明日、担当医と話あってください」
「あの…アイツ…生きられますか…?」
佐野さんが、 真剣な表情で先生にそう声をかける。
先生は少し難しい顔をしてこう言った。
「そうですね…抗がん剤や放射線での治療が効けば…まぁ、延命は可能かと思います。
上腕に骨転移の所見も軽く見受けられるので、この時点では、なんとも…」
あたしの頭の中に、そう言ったお医者さんの声が、共鳴するようにぐるぐると回っていく。
お医者さんは、延命は可能だって…
そう言った…
でも、それって…
つまり…
つまり…
あたしは、愕然として、ただ、お医者さんの顔を見つめるだけだった。
知らなかった…
全然、気付きもしなかった…
ケイが…
ケイが…
がんだったなんて…
時々、具合が悪そうにしてたのは、そのせいだったんだ…
それなのに…
あたしは…
能天気に、自分の話ばっかりして…
泣いてみたり、今夜みたいに迷惑かけてみたり…
あたし…
あたし…ほんとに馬鹿だ!
抱えていたケイのコートをぎゅって抱きしめると、あたしは、泣き出したい衝動にかられて、思わず、診察室から飛び出してしまった。
佐野さんが、少し驚いたみたいに、あたしを振り返ったのがわかったけど、あたしは、足を止める事ができなくて、 全力疾走でロビーまで走った。
そして、あたしは。誰もいないロビーの床に、ぺたんって座りこんでしまう。
「あたしのばかぁ…」
あたしはケイのコートを抱きしめたまま、声を殺して泣いた。
なんでもっと早く、気付いてあげられなかったんだろう…
一杯、一杯、迷惑かけて…
あたしは、いつも、自分の気持ちばっかり、ケイに押し付けて…
あたしは…
あたしは、なんて自分勝手なんだろう…
「うぅっ…うぅっ…!」
肩を震せて、一人で泣いてたあたしの耳に、ふと、こっちに近寄ってくる、足音が聞こえた。
あたしは床に座り込んだまま、顔も上げずに嗚咽する。
その足音は、あたしの後で止まった。
「感傷的だな…優子は?」
どこか可笑しそうにくすくすと笑うその声は、佐野さんの声だった。