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あたしは、ぶるぶると肩を揺らしたまま、少しだけ顔を上げてみる。
佐野さんは、静かな口調でこう言った。

「一つ説教すんぞ。
今、病気と向かい合ってる本人は、泣いたりわめいたり、それこそ泣き言いったりしてない訳だ…
元気なやつが、ここで泣いててどうすんだ?」

その言葉に、あたしは、ハッとして、思わず佐野さんを振り返る。
佐野さんは、冷静な表情のまま言葉を続ける。

「一番辛いのは誰だ?一番痛い思いしてんの誰だ?それでも、闘ってのは誰だ?」

一息置いて、佐野さんは、あたしの後に座り込むと、小さく笑って、また口を開く。

「闘ってる本人が泣かないんだから…
元気なやつは、本人より先に、泣いたらダメなんだよ…
本人が諦めてないのに、元気なやつが、無駄にショック受けて諦めたら、絶対にダメなんだよ…
泣いていいのは、アイツが泣いた時だけだ…
わかったか?」

その言葉が、弱虫なあたしの心をガツンって殴った気がした。
あたしは、ぎゅって唇を噛みしめて、真っ直ぐに佐野さんの笑顔を見つめると、片手で、溢れ出した涙をぬぐった。

佐野さんの言葉は…
当たってる…
その通りだって…
あたしも思う…

あたしの知ってる限り、ケイは、具合悪くても、泣いたり、弱音吐いたり、病気のこと嘆いたりしてなかった。
あたしが病気のことを気付かないまま、こうして、いままでいたのも、ケイが、一切そんな素振りを見せなかったからだ…
きちんと仕事をこなして、お店のスタッフとふざけたり、あたしのこと、からかってみたり…
ケイは、毅然と病気に立ち向かってたから、だから、気付くこともできなかったんだ。
それはケイの強さだって…あたしは、そう思った。

そうだよね…
ケイが泣いてないのに、あたしが先に泣いたら、ダメなんだよね…

あたしは、唇を噛みしめたまま、ケイによく似た真っ直ぐな眼差しの佐野さんに、こくんってうなずいてみせたのだった。

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