BitteR SweeT StrawberrY
      *
いつの間にか眠ってしまっていたあたしが、目を覚ましたのは、もう明け方近くになってからだった。
ICUに新しい患者さんが運ばれてきたのか、看護士さんたちが慌しく動いていた。
あたしは、まだ眠い目を擦って、ゆっくりと周りを見ましてみる。
佐野さんの姿はない。
でも、誰が掛けてくれたのか、あたしの背中にはケイのコートが羽織らされていた。
呼吸と心拍の機械の音は、一定のリズムで鳴っている。
ケイの手を握ったままだったあたしは、その手からちゃんと体温を感じていた。
体を起こして、そーっとケイの顔を覗きこむと、大分、顔色も落ち着いてきたみたいだった。
あたしは、ほっとして、また、ぱたんってベットの端に上半身を倒してしまう。
ぼーっとしてるあたしの思考回路。

まだ眠い・・・

そんなことを思いながら、ぼーっとする頭で、あたしは考えた。
ケイがここにいるということは、多分佐野さんが、入院手続きを取ったということだと思う。
もし、このまま、ケイが長く入院することになったら、きっと着替えとかも必要になるだろうし、他にも色々必要なものも出てくるはず。

佐野さんが、それを一人で、全部用意するのかな・・・?
あたしも、何か手伝いたいな・・・

そして、眠いままのあたしは閃いた。

会社、今日は、休もう・・・
うん、そうしよう・・・

入社以来、ずっとまじめに無遅刻無欠勤を貫いてきたあたしだけど、これは、ある意味緊急事態なのだ、これぐらい、きっと許されるはず。
インフルエンザだって言ってしまおう。
有休も全然使ってないし、丁度いい。
そう思った時だった・・・
あたしの手の中で、ぴくって、ケイの指が動いた。
あたしはハッとして体を起こすと、思わず、ケイの顔を覗きこむ。
ケイの長い睫毛が揺れて、静かに瞼が開く。

「あ・・・っ」

あたしは、ぎゅうってケイの手を握った。
まだ、ちょっと虚ろなケイの眼が、ゆっくりとあたしを見る。
酸素マスクの下で、ケイは、かすれた声でこう言った。

「優・・・子・・・・手・・・痛い・・・」

あたしは、ぱっと手を離す。

「あっ!ご・・・ごめん!
目が覚めたんだね・・・!今、看護士さん呼んでくるね!」

あたしがそう言うと、まだ、いつもの目力の戻らないケイの綺麗な瞳が、柔らかく笑った。
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