BitteR SweeT StrawberrY
タクシーはそのまま、ケイのマンションのエントランス辺りに停車した。
ガチャって音がして、その後部座席のドアが開く。
あたしは、外灯の下に出てきたその人影を見て、ハッとした。
黒いロングコートの裾がふわって揺れて、両手をポッケに突っ込んだ姿勢で、その人はゆっくりとこっちに近づいてくる。

「おーい・・・優子は嫌がってるっぽいぞ~
取り合えず離れてみたら?じゃないと警察呼ぶぞ~」

思いっきり聞き覚えのあるハスキーな声が、くすくすと笑いながらそう言った。
絶対に、ありえないというか・・・・
絶対に、こんなとこにいちゃいけない人が・・・
何故か、そこにいた・・・

それは・・・
紛れもなく、ケイだった・・・

な、なんで、ここに・・・ケイがいるんだろう・・・?

あたしは、あまりにもあり得ないその状況にひたすら驚いてしまって、声も出せないほど唖然とした。
大輔は、警察を呼ぶと言われて、流石に焦ったのか、そんなあたしの体からぱって手を離した。
ケイは、ものすごく冷淡な表情をしながらも、唇だけで可笑しそうに笑って、大輔にむかってこう言った。

「おまえさ、優子の会社の前で待ち伏せとかしてたんだって?
あのさ、大体予想はつくけどさ・・・・なんでそんなに優子とより戻したいか、ちゃんと言ってみ?」

大輔は、急に眉を吊り上げて、威嚇するように声を荒げる。

「なんだおまえ・・・っ!何にも関係ないだろおまえは!」

だけど、勢いよくそう言った大輔の視線が、不意に、ケイの肩を通り越した向こう側を見る。
それに釣られるようにして、あたしも、停車したタクシーの方に目を向ける。
そこにはもう一つ、長身の人影があって、それが佐野さんだってことに、あたしはすぐに気が付いた。
佐野さんは、タクシーの屋根にもたれかかるようにして、どこか呆れたような顔をしてたけど、次の瞬間、何故か、唇の隅でニヤって、底意地の悪く笑う。
大輔は、まさかこの場に、男の人がいるなんて思ってなかったのか、佐野さんのその嫌味な笑顔を見て、どことなく怯んだようだった。

ケイは、肩越しにちらっと佐野さんに振り返って、もう一度、その視線を大輔に向けると、やっぱり嫌味に笑いながら、こう言うのだ。

「関係ないようで、関係なくないんだな、これが・・・
優子のことは大事だからさ・・・少なくとも、おまえよりは大事にしてるし。
っていうか、ちゃんと言ってみ?なんでそんなに優子とより戻したいのか?」

「・・・っ」

冷淡なケイのその口調と、タクシーのところからこっちを見てる佐野さんの視線が怖くなったのか、大輔は、バツの悪そうな顔をして一歩二歩後退りする。
あたしは、はんだかハラハラしてきて、そんな大輔とケイの顔を交互に見ながら、どうしたらいいのかわからなくなって、オロオロしてしまった。
そんなあたしの目の前で、ケイはまるで挑発でもしてるみたいに、くすくすと笑いながら、大輔に向かってこう言ったのだ。

「言えないんだ?おまえみたいなやつが何を考えてるかなんて、大体はわかるって言っただろ?」

「な、なにが判るって言うんだよ・・・っ!」

焦ったような顔する大輔が、じろってケイの綺麗な顔を睨む。
だけど、ケイは怖がりる素振りすらしないで、ますます底意地の悪い口調で言葉を続ける。

「昔さ、知り合いにこんな奴がいたんだよ。
そいつはさ、嫁がいるのに銀座の女に入れあげてさ、散々持ち金使った挙句に、自分の金がつきちゃってさ、会社の金にまで手出した訳。
で、浮気がバレて、嫁が離婚するって言って出ていったのに、嫁のことを散々つけ回してさ。
嫁をつけ回した理由ってのが、嫁の両親をアテにして、会社の金の穴埋めを頼みたかってやつ・・・・」

「・・・・・・」
ケイの言葉を聞いた大輔の顔から、さーっと血の気が引いていく。

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