BitteR SweeT StrawberrY

      *
 美保との電話を終えて、病院に辿りついたあたしは、大輔のことをケイに話してみた。
ケイは、ベッドの上でノートPCをいじりながら、その視線をちらっとあたしに向けて、唇だけで笑うのだった。

「そんな男と結婚なんかしなくてよかったな、おまえ?」

あたしは、ベッドの上に頬杖をつきながら、思わず苦笑いしてから、ケイに視線を向ける。

「ほんとだよね・・・・あたしってさ、男運悪いのかも・・・」

「運が悪いっていうか・・・見る目がないんだよ」

ケイはそう言って、あははって笑った。

「もぉ!それを言わないでよぉ・・・・」

子供みたいに唇を尖らせて、あたしは、じとーって笑ってるケイを見る。
ケイの顔色は良いみたい。
なんだか元気そうで、ちょっと安心した。
でも・・・
例え元気そうに見えても、病巣が消えた訳じゃないから、喜んでもいられないんだけど・・・
あたしは、少し不安になって、そーっと手を伸ばすと、ケイのパジャマの裾を掴んだ。
ケイは、そんなあたしを、きょとんとした顔で見る。

「どした?」

「ん?んー・・・別に・・・なんとなく、掴んでみたかったから・・・」

えへへって笑って誤魔化したあたし。
ケイは、小さく首をかしげながら、愉快そうな表情でこう言った。

「おかしな奴だな」

「おかしくないよぉ・・・ちょっと、甘えてみたかった・・だけ」

うつむきながらそう言ったあたしに、そっと手を伸ばして、ケイはいつものように、あたしの髪をふわっと撫でる。
そして、思い出したように言葉を続けた。

「ああ・・・おまえの元彼、それ刑事事件だよな?」

「んー・・・やっぱりそうなるのかな?」

「行方不明って、つまり逃げたってことだろ?」

「うん、そうだと思う」

「ああいうのは、また切羽詰ってくると、元の女を頼ってきたりするからな・・・
おまえ、気をつけたほうがいいぞ」

「え?なんで?」

「ダメ男は、究極に追い詰められると、何をしでかすかわからないってこと。
逆恨みされて、『おまえが金出してくれなかったからだ!』とか言われてもいやだろ?」

「もぉ~ケイってばぁ、脅かさないでよぉ・・・
ケイが言うこと、結構ほんとになっちゃうから怖いんだよぉ」

あたしは、思いっきり困った顔になって、唇を尖らせたまま、じーってケイの顔を見る。
ケイは、くすくすと笑って、そんなあたしのおでこを、指先でこつんってした。

「おまえは変なオーラ出てるからな・・・・ちょっと危ないかもな」

「また変なオーラって言う!」

「なぁ、優子?」

「んー?」

「元彼が捕まるまで、うちに住んでみるか?」

ケイの突然のその言葉に、あたしは驚いて、思わずアタフタしてしまう。

「はぁ!?え!?なに、いきなり何言っちゃってんの!?」

くしゃくしゃとあたしの髪を撫でながら、ケイは言葉を続けた。

「だって、おまえだって嫌だろ?この間みたいに、待ち伏せとかされんの?」

「え!それはそうだけど!ほんとにまた、あんなことしてくるかわからないし!」

「わからないから、しばらくうちに来てたらって言ってんだろ?
どうせ、明後日は退院できるし・・・」

「・・・え!?ほんと!?退院していいって!?」

「うん。仕事も、無理のない程度にだってよ。真面目に病院には通わないとあれだけど・・・」

「そっかぁ!退院できるんだ!よかった」

「病院は退屈で困るよ」

「いや、そうだけど!ほんとに、退院したら、無理しちゃダメだよ!」

「判ってるよ・・・まぁ、そんな訳もあるし、優子がよければ、うちに住んでもいいよ」

ケイが、余りにもにっこりと笑顔でそんなことを言うから、あたしは、なんだか変に照れてしまって、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
しどろもどろになって、あたしは、こう答える。

「うっ!う・・・うぅ・・・うん・・・考えておく・・・よ」

考えておく・・・とか言ってはみたけど・・・
この時あたしは、なんだかすごく嬉しくて・・・
実は、その場で飛び上がりたい気分だった。
でも、さすがにそんな馬鹿なこともできないから、えへへって変な照れ笑いをして、ケイのパジャマの裾を、また、ぎゅうって握ってしまったのだ。

病院の図書室で借りてきていた、「がん克服料理本」の料理、作ってあげれるかもしれない。
あたしが、ケイにして上げられることなんか、そのぐらいのものだし・・・
考えておくとか言いながら、結局のあたしの心には、もう答えが出てるんだよね。
大輔が起こしたことは、元は不運と言うべき出来事だったのに、結局あたしにとって、それは幸運に変わってしまったのかもしれない。
こうして、あたしが、ケイの部屋で生活し始めるの事になるのは、そこから、たった二日後のことだった。

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